Ⅲ章 資料


クリニカル・クエスチョン(CQ)

手術に関するクリニカル・クエスチョン

CQ 1
非治癒因子を有する進行胃癌に対して予後改善を目指す減量手術としての胃切除術は推奨されるか?

推奨文
予後の改善を目指す減量手術を行わないことを強く推奨する。
解説

 Mahar ALらのシステマチックレビューでは減量手術の予後改善効果は明らかではないとされたが[1],その後は限定的な非治癒因子であれば予後改善効果が期待できるとの報告が多かった[2‒5]。しかし日韓合同で行われたランダム化比較試験(REGATTA試験)では,非治癒因子が最小限にとどまる症例を慎重に選んで検討したが,減量手術の予後改善効果は認めなかった[6]
 このREGATTA試験では,出血や狭窄がなく,肝転移(H1),腹膜播種(P1),大動脈周囲リンパ節転移(No.16a1/b2)の非治癒因子のうち1つだけを有する進行胃癌に対して減量手術としての胃切除を行うことの意義を検証した。標準治療(化学療法)群では化学療法(S-1+CDDP)のみを行い,試験治療(胃切除+化学療法)群ではD1リンパ節郭清を伴う胃切除の後に化学療法(S-1+CDDP)を行った。国,施設,リンパ節転移程度および非治癒因子を割り付け調整因子とした。主要評価項目は全生存期間,副次評価項目は無増悪生存期間と有害事象発生割合で,胃切除+化学療法群の優越性を検証するデザインであった。2008年から2013年に175例(化学療法群86例,胃切除+化学療法89例)が登録された。第1回目の中間解析の結果,全生存期間において胃切除+化学療法群が化学療法群を有意に上回る可能性が13.2%と推定されたため,試験は無効中止となった。化学療法群の2年生存割合と生存期間の中央値はそれぞれ31.7%(95%信頼区間:21.7‒42.2),16.6カ月(95%信頼区間:13.7‒19.8)であり,胃切除+化学療法では25.1%(95%信頼区間:16.2‒34.9),14.3カ月(95%信頼区間:11.8‒16.3)であった。化学療法に伴うGrade 3,4の有害事象の発生は胃切除+化学療法群で高かった。両群でそれぞれ1例の治療関連死を認めた。化学療法前に減量手術としての胃切除を行っても生存期間の改善が得られないことが判明したことから,非治癒因子を1つのみ有する進行胃癌に対する標準治療は化学療法単独であり,減量手術としての胃切除を行うべきではないと結論された。
 以上より,非治癒因子を有する進行胃癌に対して予後の改善を目指す減量手術としての胃切除を行わないことを強く推奨する。

[1] Mahar AL, Coburn NG, Singh S, et al: A systematic review of surgery for non-curative gastric cancer. Gastric Cancer 2012; 15 Suppl 1: S125‒37.
[2] He MM, Zhang DS, Wang F, et al: The role of non-curative surgery in incurable, symptomatic advanced gastric cancer. PLoS One 2013; 8: e83921. doi: 10.1371/journal.pone.0083921. eCollection 2013.
[3] Sun J, Song Y, Wang Z, et al: Clinical significance of palliative gastrectomy on the survival of patients with incurable advanced gastric cancer: a systematic review and meta-analysis. BMC Cancer 2013; 13: 577. doi: 10.1186/1471-2407-13-577.
[4] Nie RC, Chen S, Yuan SQ, et al: Significant Role of Palliative Gastrectomy in Selective Gastric Cancer Patients with Peritoneal Dissemination: A Propensity Score Matching Analysis. Ann Surg Oncol 2016; 23: 3956‒63.
[5] Warschkow R, Baechtold M, Leung K, et al: Selective survival advantage associated with primary tumor resection for metastatic gastric cancer in a Western population. Gastric Cancer 2017; Jun 23. doi: 1 0.1 007/s1 01 20-01 7-0742-5. [Epub ahead of print]
[6] Fujitani K, Yang HK, Mizusawa J, et al; REGATTA study investigators: Gastrectomy plus chemotherapy versus chemotherapy alone for advanced gastric cancer with a single noncurable factor (REGATTA): a phase 3, randomised controlled trial. Lancet Oncol 2016; 17: 309‒18.

CQ 2
早期胃癌に対する幽門保存胃切除術は推奨されるか?

推奨文
M領域の早期胃癌に対して幽門保存胃切除術を弱く推奨する。
解説

 幽門保存胃切除術(Pylorus-preserving gastrectomy, PPG)は,胃上部1/3と幽門および幽門前庭部の一部を残した胃切除と定義されており,M領域の早期胃癌に対する縮小手術として行われている。日本胃癌学会全国胃癌登録2009年手術症例では,全国300施設全切除22,179例中772例(3.5%)に過ぎなかったが,同時期に行われた手術症例に対するアンケート調査(PGSAS-45)では,52施設2,368例中313例(13.2%)で行われており[1],その正確な頻度は不明である。PPGの適応は幽門輪から腫瘍遠位端までの距離が4 cm[2]ないしは5 cm以上[3‒5]のT1腫瘍とされている。これまで他術式と比較した前向きランダム化比較試験の報告はない。
 5年生存率は全生存期間96~98%と良好な結果が報告されている[3,6]。Propensity score matchingによるT1N0を対象とした幽門側胃切除術との比較でも,5年生存,3年無再発生存で差がないことが報告され[7],腹腔鏡下手術でも同様のことが示されている[4]。No.5あるいはNo.6リンパ節郭清が不十分になることが危惧されているが,M領域早期胃癌に対しては,現行の手技で十分であることが示されている[2,8]。PGSAS-45などを用いた後方視的アンケート調査の結果から,幽門側胃切除後と比較し,下痢,ダンピングなどの症状が軽度であること[9‒11],術後栄養状態が良好であることや胆石発生が少ないことが報告されている[4,9]。また,本術式においては,迷走神経腹腔枝の温存が重要であることが示唆されている[11]
 特異的な合併症として,食物排出遅延が指摘されている。頻度は6~8%と報告されているが[4‒6],他の症状は幽門側切除より良好とされている[5]。幽門下静脈の温存が排出遅延を抑制しうる可能性が示されている[12]
 M領域早期胃癌を適応とすれば,腫瘍学的には幽門側胃切除と同等であり,かつ術後愁訴ならびに栄養状態は良好であると考えられ,推奨される術式である。

[1] Tanizawa Y, Tanabe K, Kawahira H, et al; Japan Postgastrectomy Syndrome Working Party: Specific Features of Dumping Syndrome after Various Types of Gastrectomy as Assessed by a Newly Developed Integrated Questionnaire, the PGSAS-45. Dig Surg 2016; 33: 94‒103.
[2] Kim BH, Hong SW, Kim JW, et al: Oncologic safety of pylorus-preserving gastrectomy in the aspect of micrometastasis in lymph nodes at stations 5 and 6. Ann Surg Oncol 2014; 21: 533‒8.
[3] Tsujiura M, Hiki N, Ohashi M, et al: Excellent Long-Term Prognosis and Favorable Postoperative Nutritional Status After Laparoscopic Pylorus-Preserving Gastrectomy. Ann Surg Oncol 2017; 24: 2233‒40.
[4] Suh YS, Han DS, Kong SH, et al: Laparoscopy-assisted pylorus-preserving gastrectomy is better than laparoscopy-assisted distal gastrectomy for middle-third early gastric cancer. Ann Surg 2014; 259: 485‒93.
[5] Jiang X, Hiki N, Nunobe S, et al: Postoperative outcomes and complications after laparoscopy-assisted pylorus-preserving gastrectomy for early gastric cancer. Ann Surg 2011; 253: 928‒33.
[6] Morita S, Katai H, Saka M, et al: Outcome of pylorus-preserving gastrectomy for early gastric cancer. Br J Surg 2008; 95: 1131‒5.
[7] Aizawa M, Honda M, Hiki N, et al: Oncological outcomes of function-preserving gastrectomy for early gastric cancer: a multicenter propensity score matched cohort analysis comparing pylorus-preserving gastrectomy versus conventional distal gastrectomy. Gastric Cancer 2017; 20: 709‒17.
[8] Mizuno A, Shinohara H, Haruta S, et al: Lymphadenectomy along the infrapyloric artery may be dispensable when performing pylorus-preserving gastrectomy for early middlethird gastric cancer. Gastric Cancer 2017; 20: 543‒7.
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[10] Hosoda K, Yamashita K, Sakuramoto S, et al: Postoperative quality of life after laparoscopyassisted pylorus-preserving gastrectomy compared With laparoscopy-assisted distal gastrectomy: A cross-sectional postal questionnaire survey. Am J Surg 2017; 213: 763‒70.
[11] Fujita J, Takahashi M, Urushihara T, et al: Assessment of postoperative quality of life following pylorus-preserving gastrectomy and Billroth-I distal gastrectomy in gastric cancer patients: results of the nationwide postgastrectomy syndrome assessment study. Gastric Cancer 2016; 19: 302‒11.
[12] Kiyokawa T, Hiki N, Nunobe S, et al: Preserving infrapyloric vein reduces postoperative gastric stasis after laparoscopic pylorus-preserving gastrectomy. Langenbecks Arch Surg 2017; 402: 49‒56.

CQ 3
EMR・ESDの対象とならないU領域のcT1N0腫瘍に対して,噴門側胃切除術は推奨されるか?

推奨文
U領域のcT1N0の腫瘍に対して,選択肢の一つとして噴門側胃切除術を弱く推奨する。
解説

 U領域の腫瘍に対する術式としては,胃全摘術(TG)と噴門側胃切除術(PG)があげられる。早期胃癌症例では,多くの論文およびメタアナリシスにおいて全生存率は同等と報告されている[1,2]。胃切除後の合併症を多施設で調査したPGSAS研究では,体重減少,間食の必要性,下痢,ダンピング症状において,PGがTGよりも良好であったと報告された[3]。したがって,cT1N0の腫瘍に対して噴門側胃切除術は推奨される術式である。EMR・ESDの対象とならないT1腫瘍は,低いとはいえリンパ節転移の可能性があるのでD1+ 郭清を行うことが推奨される。さらに,後壁や大彎病変ではNo.11dのリンパ節転移陽性症例もあるので,郭清を考慮する。再建法は様々であるが,食道への逆流防止を考慮すべきである。

[1] Jung DH, Ahn SH, Park DJ, et al: Proximal Gastrectomy for Gastric Cancer. J Gastric Cancer 2015; 15: 77‒86.
[2] Ichikawa D, Komatsu S, Kubota T, et al: Long-term outcomes of patients who underwent limited proximal gastrectomy. Gastric Cancer 2014; 17: 141‒5.
[3] Takiguchi N, Takahashi M, Ikeda M, et al: Long-term quality-of-life comparison of total gastrectomy and proximal gastrectomy by postgastrectomy syndrome assessment scale (PGSAS‒45): a nationwide multi-institutional study. Gastric Cancer 2015; 18: 407‒16.

CQ 4
U領域の進行胃癌に対し,No.10,11リンパ節郭清のための予防的脾摘は推奨されるか?

推奨文
U領域の進行胃癌では,腫瘍が大彎に浸潤していない場合,脾摘を行わないことを強く推奨する。
解説

 脾摘に関するランダム化比較試験であるJCOG0110は,①胃U領域に進行癌(T2‒4)があり,②肉眼的にNo.10,11リンパ節に転移を認めず,③膵脾への直接浸潤がなく,④食道浸潤がないか,あっても3 cm以内,⑤大彎線上に病変が存在せず,⑥肉眼型が4型でない病変,を対象として,標準術式である脾摘に対する脾温存術式の非劣性を検証するデザインで行われた。脾摘群では,脾温存群より有意に出血が多く,術後合併症の頻度(特に膵液漏)が高かった。5年生存率は脾摘群75.1%,脾温存群76.4%であり,ハザード比(HR):0.88[95%信頼区間:0.67‒1.16(<1.21)]で脾温存群の非劣性が証明された[1]。したがって,この試験の対象となった上記のような症例では,脾摘を行わないことを強く推奨する。
 このランダム化比較試験では,脾摘群におけるNo.10の組織学的リンパ節転移は2.4%(6/254)と低く,その全例が再発死亡していたが,同じグループによる臨床試験で大彎病変を含んだJCOG9501(D2/D3試験)では,胃全摘・脾摘例におけるNo.10転移率は8.4%(16/191)で,有転移例の半数が5年生存していた[1]。また,4型病変も含む後方視的観察研究[2]では,大彎浸潤例のリンパ節転移率は15.9%で,転移例の5年生存率も35.4%と比較的良好であった。このように,大彎に浸潤する胃癌ではNo.10の転移頻度が高い傾向があり,郭清効果もある程度期待できるが,これに関する比較試験はなく脾摘の意義は不明である[3]

[1] Sano T, Sasako M, Mizusawa J, et al: Stomach Cancer Study Group of the Japan Clinical Oncology Group. Randomized Controlled Trial to Evaluate Splenectomy in Total Gastrectomy for Proximal Gastric Carcinoma. Ann Surg 2016; Jun 8. [Epub ahead of print]
[2] Watanabe M, Kinoshita T, Enomoto N, et al: Clinical Significance of Splenic Hilar Dissection with Splenectomy in Advanced Proximal Gastric Cancer: An Analysis at a Single Institution in Japan. World J Surg 2016; 40: 1165‒71. doi: 10.1007/s00268-015-3362-4.
[3] Brar SS, Seevaratnam R, Cardoso R, et al: A systematic review of spleen and pancreas preservation in extended lymphadenectomy for gastric cancer. Gastric cancer 2012; 15 Suppl 1: S89‒99.

CQ 5
切除可能限界近傍の高度リンパ節転移症例に対して,術前化学療法を伴う拡大郭清手術は推奨されるか?

推奨文
少数のリンパ節腫大がNo.16a2,b1に限局して存在する場合と,腹腔動脈分枝周囲のリンパ節が切除可能限界近傍まで腫大している場合は,他に非治癒因子がなければ術前化学療法後の外科的切除を弱く推奨する。(CQ26も参照)
解説

 JCOGでは,総肝動脈,腹腔動脈,脾動脈などに沿って長径3 cm以上のリンパ節腫大(複数のリンパ節が癒合したものも含む)か,隣接する2個以上の長径1.5 cm以上のリンパ節腫大を認める場合を「Bulky N」と定義し,さらに「少数のリンパ節腫大がNo.16a2,b1に限局して存在する」場合とを合わせて,高度リンパ節転移とした。これらの症例では従来の手術と術後補助化学療法による治療の予後が極めて不良であることから,術前補助化学療法(NAC)後にD2+大動脈周囲リンパ節郭清を伴う胃切除術を行う試験的治療が提案され,50例規模の第Ⅱ相試験が行われてきている。NACは微小転移に対する効果に期待して行うものであるが,Bulky N症例においてはリンパ節の縮小が切除の可否に関わる場合もあり,腫瘍縮小効果も重要な要素と考えられる。
 第Ⅱ相試験は,その時点で最良と思われた多剤併用療法をNACに用いて,これまで3種が実施され,現在さらに次の試験が計画されている。2~3コースのイリノテカン+シスプラチン併用療法(JCOG0001),S-1+シスプラチン併用療法(SP療法)(JCOG0405)[1],S-1+シスプラチン+ドセタキセル併用療法(JCOG1002)[2]のうち,SP療法により82%のR0切除率,53%の5年生存率という非常に高い成績が得られた。これにドセタキセルを加えても各評価項目に目立った上乗せ効果がみられなかったことから,現時点ではSP療法が最良のレジメンと考えられている。これらの第Ⅱ相試験では,他に非治癒因子がないことを確認するために造影CTに加えて審査腹腔鏡による評価が必須となっている。
 これらの試験ではD2郭清に加えて大動脈周囲リンパ節郭清が行われたが,リンパ節転移が高度でない胃癌症例に対する大動脈周囲の予防的郭清の意義は第Ⅲ相試験により否定されている[3]。しかし「少数のリンパ節腫大がNo.16a2,b1に限局して存在する」場合には大動脈周囲リンパ節郭清がR0切除を得る唯一の手段であり,Bulky N症例でも大動脈周囲リンパ節への潜在的転移率は高いため,これら第Ⅱ相試験で好成績が得られたのはこの拡大郭清が貢献している可能性がある。ただし,この術式は術者の経験と技術を要する難易度の高いものであり,術後の合併症も増加するため,Bulky Nのみの場合にも行うべきか否かには議論の余地がある。NAC+拡大郭清を伴う胃切除という戦略は,少なくともこの術式に熟練した施設を中心に試験的治療として検証され有望と認識された段階にあるので,弱い推奨にとどまる。

[1] Tsuburaya A, Mizusawa J, Tanaka Y, et al: Neoadjuvant chemotherapy with S-1 and cisplatin followed by D2 gastrectomy with para-aortic lymph node dissection for gastric cancer with extensive lymph node metastasis. Br J Surg 2014; 101: 653‒60.
[2] Ito S, Sano T, Mizusawa J, et al: A phaseII study of preoperative chemotherapy with docetaxel, cisplatin, and S-1 followed by gastrectomy with D2 plus para-aortic lymph node dissection for gastric cancer with extensive lymph node metastasis: JCOG1002. Gastric Cancer 2017; 20: 322‒31.
[3] Sasako M, Sano T, Yamamoto S, et al: D2 lymphadenectomy alone or with para-aortic nodal dissection for gastric cancer. N Engl J Med 2008; 31: 453‒62.

CQ 6
食道胃接合部癌に対する至適リンパ節郭清範囲は何か?

推奨文
噴門側胃切除・下部食道切除で郭清されるリンパ節(No.1,2,3,7,下縦隔)を基本とし,①組織型,②腫瘍長径,③食道胃接合部から腫瘍口側縁の距離,に応じて,上・中縦隔郭清を含めた食道亜全摘の選択も考慮する。(p. 15,アルゴリズム参照)
解説

 長径4 cm以下の腫瘍に限定して行われた日本胃癌学会・日本食道学会合同での全国調査結果により[1],本ガイドラインにも収載されているリンパ節郭清アルゴリズムが策定された。No.4,5,6リンパ節は,過去の単一施設からの報告と同様に転移頻度が極めて低く[2],予防的郭清を行う腫瘍学的な意義は少ないと評価されアルゴリズムには含まれなかった。一方,同じ占居部位でありながら,扁平上皮癌と腺癌とは異なったリンパ節郭清パターン,郭清効果を示しており,前者には上縦隔までの郭清を推奨とし,後者では上・中縦隔郭清が行われる頻度が低いため検討課題とされた。
 本邦においては欧米と異なり下部食道腺癌が極めて低頻度であるという背景から,食道胃接合部腺癌は上部胃癌の一亜型として長らく扱われてきた。結果的に胃全摘+下部食道切除の選択がこれまでは多かった。4 cm以下の腫瘍であれば深達度にかかわらず胃全摘は必ずしも必要ないという結論が得られ,食道胃接合部腺癌を「食道浸潤胃癌」と区別して扱う土台ができた。4 cmを超える大きな腫瘍であっても過去の報告ではNo.4,5,6リンパ節への転移頻度は極めて低いが,これに対して胃全摘が不要とは結論付けられず今後の検討課題である。
 JCOG9502試験の結果,腫瘍口側縁が食道胃接合部から3 cm以下の場合には非開胸経裂孔アプローチが標準治療と位置づけられるため[3],腫瘍長径4 cm以下の食道胃接合部腺癌に対しては経裂孔的な下部食道噴門側胃切除で予防的リンパ節郭清は足りると強く推測される。また,JCOG0110試験により腫瘍口側縁が接合部から3 cm以下の上部胃癌で腫瘍が胃大彎に及んでいない場合には予防的リンパ節郭清を目的とした脾摘は不要と考えられ(CQ4参照)[4],食道胃接合部腺癌の多くがこの条件を満たすものと推測できる。アルゴリズムに記載されている通りにNo.1,2,3,7と膵上縁リンパ節(No.8a,9,11p,11d),下縦隔リンパ節,裂孔部リンパ節の郭清が基本になると考えられる。
 一方で,腫瘍長径が4 cmを超えた場合に下部食道噴門側胃切除で十分かどうかは推測の域を出ない。また,腫瘍が接合部から3 cm以上食道へ進展している場合には口側マージンを確保するためにも食道亜全摘が選択されることが多いが,上・中縦隔郭清の必要性については明確な回答がない。胃癌では予防的郭清効果が否定的なNo.16a2 latは,食道胃接合部腺癌に対してはNo.11リンパ節と同等の郭清効果があったという単施設からの報告もある[5]。日本胃癌学会・日本食道学会合同で,T2以深の食道胃接合部癌に対し前向き第Ⅱ相試験が行われており,これら未解決な課題について一定見解が得られると期待される。

[1] Yamashita H, Seto Y, Sano T, et al: Japanese Gastric Cancer Association and the Japan Esophageal Society. Results of a nation-wide retrospective study of lymphadenectomy for esophagogastric junction carcinoma. Gastric Cancer 2017; 20 (Suppl 1): 69‒83.
[2] Yamashita H, Katai H, Morita S, et al: Optimal extent of lymph node dissection for Siewert type II esophagogastric junction carcinoma. Ann Surg 2011; 254: 274‒80.
[3] Sasako M, Sano T, Yamamoto S, et al: Japan Clinical Oncology Group (JCOG9502). Left thoracoabdominal approach versus abdominal-transhiatal approach for gastric cancer of the cardia or subcardia: a randomised controlled trial. Lancet Oncol 2006; 7: 644‒51.
[4] Sano T, Sasako M, Mizusawa J, et al: Stomach Cancer Study Group of the Japan Clinical Oncology Group. Randomized Controlled Trial to Evaluate Splenectomy in Total Gastrectomy for Proximal Gastric Carcinoma. Ann Surg 2017; 265: 277‒83.
[5] Mine S, Sano T, Hiki N, et al: Lymphadenectomy around the left renal vein in Siewert type II adenocarcinoma of the oesophagogastric junction. Br J Surg 2013; 100: 261‒6.

CQ 7
U領域胃癌に対する腹腔鏡下胃全摘術は推奨されるか?

推奨文
U領域胃癌に対する腹腔鏡下胃全摘術は,cStage Ⅰには考慮してもよいが,十分な科学的根拠はない。この術式に習熟した医師本人,またはその指導下に行うことを推奨する。
解説

 腹腔鏡下胃全摘術と開腹胃全摘術のランダム化比較試験はなく,多数の後方視的症例比較研究,それらを用いたメタアナリシスが報告されている。メタアナリシスでは腹腔鏡下胃全摘では開腹胃全摘に比して有意な出血量の低下[1‒6],鎮痛剤投与の減少[2‒4,6],腸管運動の早期回復[2‒6],経口摂取の早期開始[2,6,7],在院期間の短縮[1‒6]といった短期的な有用性が報告されているが,有意な手術時間の延長が認められた[1‒6]。周術期死亡は腹腔鏡下と開腹で有意差がなかった[1‒3,5]。術後合併症については腹腔鏡下の方が有意に少ない[5],または少ない傾向であったという報告[2,4]があるが,その内訳をみると創関連の合併症が腹腔鏡下で有意に減少していた[4,5]。しかしメタアナリシスに含まれていない多施設合同の後方視的症例比較研究において腹腔鏡下の方が吻合部関連の合併症が有意に多かったとの報告もある[7]。リンパ節郭清個数に関してはメタアナリシスにおいて有意差がないという報告[1‒4]や腹腔鏡下の方が有意に少ないという報告[6]もあるが,その中には癌の進行度やリンパ節の郭清範囲が腹腔鏡下と開腹でかなり異なる研究も含まれている。現在cStage Ⅰに対する腹腔鏡下胃全摘あるいは噴門側胃切除術の安全性を評価するJCOG1401試験が行われ[8],この解析結果が待たれるところである。現状ではcStage Ⅰの胃癌に対して腹腔鏡下胃全摘術に習熟した医師の指導のもとで行うべきであろう。

[1] Haverkamp L, Weijs TJ, van der Sluis PC, et al: Laparoscopic total gastrectomy versus open total gastrectomy for cancer: a systematic review and meta-analysis. Surg Ensdosc 2013; 27: 1509‒20.
[2] Chen K, Xu XW, Zhang RC, et al: Systematic review and meta-analysis of laparoscopyassisted and open total gastrectomy for gastric cancer. World J Gastroenterol 2013; 19: 5365‒76.
[3] Shen H, Shan C, Liu S, et al: Laparoscopy-assisted versus open total gastrectomy for gastriccancer: a meta‒analysis. J Laparoendosc Adv Surg Tech A 2013; 23: 832‒40.
[4] Wang W, Li Z, Tang J, et al: Laparoscopic versus open total gastrectomy with D2 dissection for gastric cancer: a meta-analysis. J Cancer Res Clin Oncol 2013; 139: 1721‒34.
[5] Xiong JJ, Nunes QM, Huang W, et al: Laparoscopic vs open total gastrectomy for gastric cancer: a meta-analysis. World J Gastroenterol 2013; 19: 8114‒32.
[6] Wang W, Zhang X, Shen C, et al: Laparoscopic versus open total gastrectomy for gastriccancer: an updated meta-analysis. PLoS One 2014; 9: e88753.
[7] Lee JH, Nam BH, Ryu KW, et al: Comparison of outcomes after laparoscopy-assisted andopen total gastrectomy for early gastric cancer. Br J Surg 2015; 102: 1500‒5.
[8] Kataoka K, Katai H, Mizusawa J, et al: Non-randomized confirmatory trial of laparoscopyassisted total gastrectomy and proximal gastrectomy with nodal dissection for clinical stage I gastric cancer: Japan Clinical Oncology Group Study JCOG1401. J Gastric Cancer 2016; 16: 93‒7.

CQ 8
胃癌肝転移に対する肝転移切除は推奨されるか?

推奨文
転移個数が少数で,他の非治癒因子を有さない場合,外科的切除を弱く推奨する。
解説

 胃癌の肝転移は両葉に多発することが多いこと,肝外にも転移巣を有することが多いことなどから,肝切除の対象となりにくい。これまで胃癌肝転移症例における肝切除の意義を検証する臨床試験は行われておらず,単施設で長期間にわたって集積された比較的少数の肝切除例についての後方視的な研究によるエビデンスしか存在しない。これらの研究の多くではその他の非治癒因子がないことに加えて転移個数が少ないことが予後因子としてあげられており,慎重に適応を選べば原発巣の根治的な切除に加えて肝切除を行うことによって長期生存が得られる可能性があることが示唆されている[1]。その後,多施設での後方視的解析[2,3]や転移個数を診断する画像診断を造影MRIに統一したコホートの解析[4]などが行われ,単発であることがとりわけ重要な予後因子であること[2],精度が高い画像診断を行って転移個数3個までの症例を手術適応とすれば30%程度の5年生存率が得られることなどが報告された。また,異時性,同時性のいずれが有利であるかについては見解の一致がみられない[1]ことから,再発例でも同様の条件で手術適応となり得る。

[1] Kodera Y, Fujitani K, Fukushima N, et al: Surgical resection of hepatic metastasis from gastric cncer: a review and new recommendation in the Japanese gastric cancer treatment guidelines. Gastric Cancer 2014; 17: 206‒12.
[2] Oki E, Tokunaga S, Emi Y, et al: Surgical Treatment of liver metastasis of gastric cancer: a retrospective multicenter cohort study (KSCC1302). Gastric Cancer 2016; 19: 968‒76.
[3] Kinoshita T, Kinoshita T, Saiura A, et al: Multicentre analysis of long-term outcome after surgical resection of gastric cancer liver metastases. Br J Surg 2015; 102: 102‒7.
[4] Tatsubayashi T, Tanizawa Y, Miki Y, et al: Treatment outcomes of hepatectomy for liver metastases of gastric cancer diagnosed using contrast-enhanced magnetic resonance imaging. Gastric Cancer 2017; 22: 387‒93.

CQ 9
cT2以深の残胃の癌に対する至適リンパ節郭清範囲は何か?

推奨文
初回手術で郭清していない胃領域リンパ節を郭清することを推奨する。空腸間膜リンパ節および脾門リンパ節の郭清意義は確定していない。
解説

 残胃に発生した進行癌の手術は基本的には残胃全摘術であり,他臓器浸潤がある場合はその合併切除を伴う根治切除である。初回手術が良性で残胃が大きい場合,残胃亜全摘術が行われることもある。初回手術の影響でリンパ流が変化しリンパ節転移様式も変化している可能性があるが,残胃癌手術では初回手術で郭清していない胃領域リンパ節を郭清することが推奨される。
 初回手術でBillroth ⅡまたはRoux-en-Y再建が行われている場合,吻合部に浸潤する残胃癌では空腸間膜リンパ節に転移する場合があり(15~35%)[1,2],残胃癌特有のリンパ節転移として報告されてきた。『胃癌取扱い規約第13版』ではJ1/J2という区別が記載されており,第14版では空腸間膜リンパ節も領域リンパ節に含めるとの記載がある。しかし郭清範囲や郭清効果について十分な根拠を持つ報告はない。
 残胃進行癌では脾摘が行われることが多く[3],脾門リンパ節の転移頻度は15~26%と報告されてきた[2,3,4]。脾門リンパ節郭清のために脾摘を行う方が良いという報告もあるが[5],脾摘についての臨床試験(JCOG0110)の結果(CQ4参照)を残胃癌に外挿できるかは不明で,郭清効果に関する評価は十分ではない。
 残胃癌と通常胃癌の予後の比較について,Shimadaらのレビュー[6]では残胃癌の方がやや予後不良であるが有意差はないという結果であった(予後が変わらないとする報告[2,7,8],不良とする報告[9])。リンパ節転移のある残胃癌は予後不良であるとする報告もある[10]。ただし患者背景のばらつきや各報告の症例数が多くないなどの問題点が解析を困難にしているので,大規模なコホート研究が必要である。
 これまでの報告には初回手術が良性潰瘍に対するものであった症例が多く含まれている(2012年までの解析で約40%[10,11])が,今後は初回手術が悪性疾患であったものが主体となると考えられる。初回手術が良性と悪性では遺残リンパ節も異なるため,転移様式や予後に与える影響も異なる可能性がある。胃癌手術後の残胃癌をまとめたOhashiの報告[3]では,胃周囲リンパ節(No.2, 4sa)の転移頻度は35%で,有転移例の5年生存率は17%と不良であった。リンパ節郭清範囲の検討については対象を絞った研究が望ましい。

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CQ 10
胃癌治療方針の決定に審査腹腔鏡は推奨されるか?

推奨文
腹腔洗浄細胞診陽性を含む腹膜播種の可能性が比較的高い胃癌症例および術前化学療法の適応となり得る進行した胃癌症例に対して,治療方針の決定のために審査腹腔鏡を行うことを弱く推奨する。
解説

 腹腔洗浄細胞診陽性を含む腹膜播種の有無を治療前に診断することは重要であるが,胃癌の腹膜播種診断におけるCTの感度は0.33(95%信頼区間:0.16‒0.56)と報告されており不十分である[1]。一方,審査腹腔鏡は全身麻酔が必要で一定の侵襲性はあるものの,感度64~94%,正診率85~99%と他の検査モダリティを凌駕している[2]
 審査腹腔鏡を行うべき症例の選択に関しては議論の余地がある。高度進行胃癌が多い欧米諸国ではcT3/T4またはcN(+)症例を適応とする報告が多いが[3],治癒切除可能な症例の多い日本ではこの適応は現実的ではなく,一定の絞り込みが必要である。JCOGでは,大型3型・4型胃癌に対する術前化学療法(NAC)の第Ⅲ相試験(JCOG0501)において審査腹腔鏡を必須とした。これは試験の対象である大型3型(腫瘍径8 cm以上)および4型胃癌で腹膜播種が高頻度にみられるためで,これを受けて本邦では多くの施設がこの基準で審査腹腔鏡を行っている。こうした施設からの報告によれば,53.4~56.8%の症例に腹腔洗浄細胞診陽性を含む腹膜播種が認められた[4‒6]。これらは単施設からの報告であるものの,統一した基準による再現性の高い結果である。
 また,審査腹腔鏡はNACを考慮する症例の選別にも有用であると考えられる。JCOGによる高度リンパ節転移を伴う進行胃癌に対するNACの第Ⅱ相試験(JCOG0001,0405,1002)では,Bulky NもしくはNo.16a2/b1転移症例を伴う症例(CQ5参照)に対して審査腹腔鏡を必須とした。この基準で行った場合,20~21.4%の頻度で腹膜播種が認められると報告されている[4,6]。この頻度は高いとはいえないため,まずNACとして化学療法を行い,その後に審査腹腔鏡を行って手術適応を決定するという考えもある。
 また上記の対象以外でもCTにて少量の腹水や腹膜播種を示唆する結節を認める場合,審査腹腔鏡が有用な場合がある。現在,審査腹腔鏡に関する質の高いエビデンスは乏しく,統一した基準を設けることはできないが,①4型胃癌,②腫瘍径8 cm以上の大型3型胃癌,③NACの考慮対象となる高度リンパ節転移症例(CQ5参照)に対して審査腹腔鏡を行うことを弱く推奨する。

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内視鏡的切除に関するクリニカル・クエスチョン

CQ 11
EMR/ESD適応病変(2 cm以下の潰瘍所見を有さない分化型粘膜内癌)に対して,EMRとESD,どちらの内視鏡的切除法が推奨されるか?

推奨文
EMR/ESD適応病変(2 cm以下の潰瘍所見を有さない分化型粘膜内癌)に対する内視鏡的切除法として,ESDを選択することを弱く推奨する。
解説

 EMRとESD,また,EMR間,ESD間での治療成績の違いをランダム化比較試験で検証した研究は存在しないが,ESDはEMRより良好な一括切除率(Odds比8.43,9.69)と非局所再発率(Odds比0.13,0.10)が得られることが後方視的研究を中心としたメタアナリシスで示されている[1,2]。また,腫瘍サイズが1 cmを超えるとEMRにおける一括切除率がESDに比し有意に低下することが報告されている[3‒7]。分割切除は局所再発率を高めるのみならず,切除標本の病理学的評価を不十分にする可能性がある。しかし一方,長期経過観察を行ったコホート研究において,EMR/ESD適応病変(2 cm以下の潰瘍所見を有さない分化型粘膜内癌)における局所再発率はEMRの方がESDに比べ有意に高いが(2.9% vs. 0%),生存率においては両者に違いがないことも報告されている[8]。以上より,患者の状態や病巣条件,施設の治療環境,術者の習熟度に応じて最良と思われる方法を選択する必要があるものの,EMR/ESD適応病変に対する内視鏡的切除法として,ESDを選択することを弱く推奨する。

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CQ 12
ヘリコバクター・ピロリ陽性例に対して,内視鏡的切除後のヘリコバクター・ピロリ除菌療法は推奨されるか?

推奨文
ヘリコバクター・ピロリ陽性例に対しては,内視鏡的切除後にヘリコバクター・ピロリを除菌することを弱く推奨する。
解説

 本邦で行われたランダム化比較試験にて,早期胃癌内視鏡的切除後のヘリコバクター・ピロリ除菌により,異時性多発胃癌の発生が年率約4.0%から約1.4%へ有意差をもって低下した一方で[1],韓国で行われたランダム化比較試験では,年率約1.2%から約0.7%へ低下傾向がみられたものの,有意差を認めなかった[2]。いずれも3年程度の比較的短い観察期間での検討であるため,長期にわたる異時性多発胃癌発生に及ぼす効果については明らかではない。本邦で行われたいくつかのコホート研究においては,ヘリコバクター・ピロリ除菌の有無による異時性多発胃癌発生に有意差がない,と報告されている[3‒5]。以上より,内視鏡的切除後のヘリコバクター・ピロリ除菌療法の有用性は定まった見解がないものの,ヘリコバクター・ピロリ陽性例に対しては,内視鏡的切除後のヘリコバクター・ピロリ除菌療法の実施を弱く推奨する。なお,ヘリコバクター・ピロリ除菌後も異時性多発胃癌の発生には留意する必要があり,現時点では,ヘリコバクター・ピロリ菌感染状態の違いによる内視鏡的切除後のサーベイランス方法を変えるだけの根拠は認められない。

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化学療法に関するクリニカル・クエスチョン

切除不能進行・再発胃癌に関するクリニカル・クエスチョン

CQ 13
切除不能進行・再発胃癌の一次治療において,フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法を投与方法や毒性プロファイルに応じて使い分けることは推奨されるか?

推奨文
切除不能進行・再発胃癌の一次治療において,フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法を投与方法や毒性プロファイルに応じて使い分けることを弱く推奨する。
解説

 S-1+シスプラチン併用療法(SP療法,S-1 80 mg/m2/day 3週内服,2週休薬,シスプラチン60 mg/m2,day 8,5週毎)は,本邦で実施されたSPIRITS試験において,S-1単独療法に対する生存期間の延長を示したことから,本邦における標準治療の一つである(推奨される:エビデンスレベルA)[1]。日本と韓国で実施されたSOS試験においては,5週毎のSP療法(上記)と3週毎のSP療法(S-1 80 mg/m2/day 2週内服,1週休薬,シスプラチン60 mg/m2,day 1,3週毎)が比較された[2]。主要評価項目である無増悪生存期間において,3週毎のSP療法の非劣性と優越性が共に示された(中央値5.5カ月vs. 4.9カ月,ハザード比[HR]:0.82,p=0.0418)ものの,生存期間はほぼ同等であったため(14.1カ月vs. 13.9カ月,HR:0.99,p=0.9068)両投与法ともに選択肢であると結論付けられた。奏効割合は3週毎のSP療法で高い傾向であったものの有意差は認めず(60% vs. 50%,p=0.065),Grade 3以上の貧血(19% vs. 9%)や好中球減少(39% vs. 9%)は3週毎のSP療法で高頻度であり,これらの有害事象に留意する必要がある。
 本邦で切除不能な進行再発の胃癌(HER2検査は適格規準に含まれていない)の初回治療例を対象に実施されたG-SOX試験において,S-1+オキサリプラチン併用療法(SOX療法,S-1 80 mg/m2/day 2週内服,1週休薬,オキサリプラチン100mg/m2,day 1,3週毎)の,SP療法に対する非劣性が検討された[3]。無増悪生存期間中央値はSP群5.4カ月,SOX群5.5カ月(HR:1.004,95%信頼区間:0.840‒1.199)であり,95%信頼区間の上限は事前に設定された非劣性マージン1.3を下回った(p=0.0044)。また,最終解析では,生存期間の中央値はSP群13.1カ月,SOX群14.1カ月,HR:0.969(95%信頼区間:0.812‒1.157)であり,95%信頼区間の上限は非劣性マージン1.15をわずかに上回った。厳密な意味では統計学的に有効性における非劣性が検証されなかったものの,得られた結果はほぼ同等と考えられた。一方,Grade 3以上の好中球減少(SP群41.8% vs SOX群19.5%),白血球減少(19.4% vs 4.1%),貧血(32.5% vs 15.1%),発熱性好中球減少(6.9% vs 0.9%),低ナトリウム血症(13.4% vs 4.4%)の頻度がSOX群で有意に低かったが,感覚性末梢神経障害はSOX群で有意に高かった(全Grade 23.6% vs 85.5%,Grade 3以上0% vs 4.7%)。全グレードにおけるトランスアミナーゼの上昇はSOX群で頻度が高かったが,Grade 3以上は稀であり両群に差を認めなかった。また,重篤な有害事象はSOX群で有意に少なかった(37.9% vs 29.3%)。さらに,シスプラチンの投与は原則として入院で実施されたため,サイクル毎の入院期間中央値はSP群6日vs SOX群0.85 日と,SOX群で有意に短かった[4]。以上より,SOX療法は,SP療法と有効性がほぼ同等であり,重篤な毒性の頻度が低いことや外来投与が容易である点から,「推奨される」レジメンの一つである(エビデンスレベルB)。一方で感覚性神経障害の頻度が高いことに留意が必要であり,毒性プロファイルに応じて,SOX療法とSP療法のいずれかを選択する必要がある。
 また,胃癌に対するオキサリプラチンの承認用量は,海外で実施されたREAL-2試験[5]に基づき,130 mg/m2,3週毎であるが,SOX療法に関しては前述のG-SOX試験で用いられた100 mg/m2,3週毎の投与方法での臨床情報が豊富である。韓国で行われたSOPP試験においては,130 mg/m2の用量のSOX療法と3週毎のSP療法が比較されており,主要評価項目である無増悪生存期間の非劣性が示されたものの優越性は示されていない[6](中央値5.6カ月 vs. 5.7カ月,HR:0.85,p=0.169)[5]。現時点ではSOX療法におけるオキサリプラチンの用量として100 mg/m2と130mg/m2のいずれが適切かという点については結論付けることは困難である。
 カペシタビン+シスプラチン併用療法(XP療法,カペシタビン2,000 mg/m2/day 2週内服,1週休薬,シスプラチン80 mg/m2,day 1,3週毎)は,5-FU+シスプラチン併用療法に対する非劣性が証明され,ToGA試験やAVAGAST試験の対照治療として用いられた。両試験における日本人症例のサブグループ解析においてもその安全性と有効性が示されており,本邦においても切除不能進行・再発胃癌に対する標準治療の1つである(推奨される:エビデンスレベルA)[7]。Grade 3以上の主たる有害事象として,好中球減少(45%),食欲不振(26%),嘔気(17%),貧血(13%)が報告されている。また,カペシタビンに特徴的な有害事象として53%に手足症候群(手掌足底発赤知覚不全症候群)が報告されている。
 カペシタビン+オキサリプラチン併用療法(CapeOX療法)については,REAL-2試験において,カペシタビンとオキサリプラチンの5-FUとシスプラチンの有効性に対する非劣性がそれぞれ示されており,両剤の胃癌に対する有用性が示唆されている。エピルビシンとの併用下であり,サブセット解析ではあるが,FP療法と同等以上の有効性が示されている(エビデンスレベルB)。これらの結果より,CapeOX療法も新薬を評価する比較試験で標準治療群と設定されている国際共同試験も複数あり,また米国NCCNのガイドラインにおいても推奨される治療選択肢とされている[8,9]。ただし,本邦においては,術後補助化学療法としてオキサリプラチン130 mg/m2を用いたCapeOX療法の第Ⅱ相臨床試験が実施され報告されているが[10],切除不能胃癌に対する報告はないことに留意が必要である(推奨される:エビデンスレベルB)。術後補助療法における第Ⅱ相試験において頻度の高いGrade 3以上の毒性としては,好中球減少(33%),食欲低下(17%),感覚性ニューロパチー(14%),嘔気(10%)が報告されており,切除不能例に対して使用する際にもこれらの事象に留意する必要がある[9]
 5-FU+レボホリナートカルシウム(l-LV)+オキサリプラチンの併用療法であるFOLFOX療法は,海外の第Ⅲ相試験でコントロールとして用いられており,世界的には標準治療の一つと考えられる(推奨される:エビデンスレベルB)。特に,経口摂取不能の場合にも投与が可能な治療レジメンであり,新薬を検討する複数の比較試験の対照治療として用いられている[11,12]。経口摂取が困難な場合には,経口フッ化ピリミジン系薬剤の投与が不可能であり,FOLFOX療法等の点滴投与の治療レジメンが選択肢となる。本レジメンは大腸癌の標準治療レジメンとして本邦でも広く用いられているが,切除不能胃癌に対する本邦の使用経験は限定されていることに留意が必要である[13]
 5-FU+シスプラチンの併用療法(FP療法,5-FU 800 mg/m2,シスプラチン20mg/m2 5日間連日投与4週毎)については,JCOG9205試験において,5-FU持続静注に対し全生存期間の延長を示すことができなかった[14]。ただし,JCOG9205試験においてはシスプラチンの分割投与が用いられており,シスプラチン80 mg/m2をday 1に投与するFP療法はToGA試験における対照治療として用いられており,経口摂取困難例かつオキサリプラチンの投与が難しい場合などに「条件付きで推奨される」レジメンである。
 HER2陽性例に対して,ToGA試験[15]の結果よりトラスツズマブとカペシタビンとシスプラチンの併用療法が標準治療である(推奨される:エビデンスレベルA)。FP療法との併用についてもToGA試験では少数例で用いられていたが,現在の本邦ではその使用は限定的である。3週毎もしくは5週毎のSP療法とトラスツズマブの併用については本邦の複数の第Ⅱ相試験[16,17]において有効性と忍容性が示唆された(推奨される:エビデンスレベルB)。また,CapeOX療法とトラスツズマブの併用については韓国の第Ⅱ相試験が報告されているものの,本邦からの報告はない[18](条件付きで推奨される)。SOX療法とトラスツズマブの併用については日本で実施された第Ⅱ相試験の結果が報告されており(条件付きで推奨される)[19],またもう一つの第Ⅱ相試験(UMIN000017602)が進行中である。いずれの併用療法を行ううえでも,前項までに言及したフッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の毒性プロファイルに加えて,トラスツズマブによる心機能低下に留意し,慎重に投与対象を検討し,心エコー等により投与中の心機能評価を定期的に行うことが重要である。FOLFOX療法との併用については臨床試験が実施されていない。

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CQ 14
切除不能進行・再発胃癌の一次治療においてタキサン系薬剤は推奨されるか?

推奨文
切除不能進行・再発胃癌の一次治療においてタキサン系薬剤は,プラチナ系薬剤が使用困難な症例に対して条件付きで推奨する。
解説

 S-1単独療法とS-1+ドセタキセル併用療法の第Ⅲ相比較試験(START試験)の結果,主解析ではS-1単独療法に対して生存期間における有意な差が検証されなかったが,追加解析において,全生存期間と無増悪生存期間の延長(全生存期間12.5カ月vs 10.8カ月,HR:0.837,p=0.032 無増悪生存期間5.3カ月vs 4.2カ月,p=0.001)[1]が報告された。その他,標準一次治療との複数のランダム化比較第Ⅱ相試験の治療成績[2‒4]が報告されているが,いずれも全生存期間,無増悪生存期間において有意差は認められていない。これらの結果から,タキサン系薬剤の併用療法は,切除不能進行・再発胃癌に対する一次化学療法の標準治療として世界的に認識されているフッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法と並列して記載するには不十分であると考えられる。また,本邦では,二次化学療法としてパクリタキセルとラムシルマブの併用療法が推奨されており,あえて一次治療にタキサン系薬剤を推奨する意義は小さい。標準一次治療であるフッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法が投与困難な,プラチナ製剤不適応の限定的な症例において条件付きで推奨される。
 切除不能進行・再発胃癌に対する一次治療において,フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤にタキサン系薬剤を上乗せすることで生存期間を延長する臨床試験結果は報告されているが,毒性等の問題から,適応症例については慎重に検討するべきである。一次治療としてのドセタキセル+シスプラチン+5-FU併用療法(DCF療法)とシスプラチン+5-FU併用療法(CF療法)の第Ⅲ相比較試験(V325試験)の結果,主要評価項目である無増悪期間(5.6カ月vs 3.7カ月,HR:1.47,p<0.001)および副次評価項目である全生存期間(9.2カ月vs 8.6カ月,HR:1.29,P=0.02)においてDCF療法の有用性が検証された[5]。ただし,DCF療法は,発熱性好中球減少症が29%,65歳以上の高齢者ではG3以上の感染症罹患の上昇を認めるなど,有害事象の頻度が高く,さらに本邦での標準一次治療であるSP療法,CapeOX療法,SOX療法の生存期間を凌駕するエビデンスはなく,普及していない。本邦では現在,切除不能進行・再発胃癌を対象としたS-1+シスプラチン併用療法とドセタキセル+シスプラチン+S-1併用療法のランダム化第Ⅲ相試験(JCOG1013試験,UMIN000007652)が行われており,現時点では,一次治療における3剤併用療法は試験段階であるとの認識が必要である。

[1] Koizumi W, Kim YH, Fujii M, et al: Addition of docetaxel to S-1 without platinum prolongs survival of patients with advanced gastric cancer: a randomized study (START). J CancerRes Clin Oncol 2014; 140: 319‒28.
[2] Kim YS, Sym SJ, Park SH, et al: A randomized phase II study of weekly docetaxel/cisplatin versus weekly docetaxel/oxaliplatin as first-line therapy for patients with advanced gastric cancer. Cancer Chemother Pharmacol 2014; 73: 163‒9.
[3] Mochiki E, Ogata K, Ohno T, et al: Phase II multi-institutional prospective randomised trial comparing S-1+paclitaxel with S-1+cisplatin in patients with unresectable and/or recurrentadvanced gastric cancer. Br J Cancer 2012; 107: 31‒6.
[4] Guo M1, Yu Y, Wang Y, et al: Low-dosed docetaxel showed equivalent efficacy but improved tolerability compared with oxaliplatin in the S-1-based first-line chemotherapy regimen for metastatic or recurrent gastric adenocarcinoma. Med Oncol 2015; 32: 230.
[5] Van Cutsem E, Moiseyenko VM, Tjulandin S, et al: Phase III study of docetaxel and cisplatin plus fluorouracil compared with cisplatin and fluorouracil as first-line therapy foradvanced gastric cancer: a report of the V325 study group. J Clin Oncol. 2006; 24: 4991‒7.

CQ 15
切除不能進行・再発胃癌の一次治療において,増悪以外の理由によるプラチナ系薬剤中止後のフッ化ピリミジン系薬剤単独の継続投与は推奨されるか?

推奨文
切除不能進行・再発胃癌の一次治療において,増悪以外の理由によるプラチナ系薬剤中止後にはフッ化ピリミジン系薬剤単独の継続投与を増悪まで継続することを強く推奨する。
解説

 現在,切除不能進行・再発胃癌の一次化学療法における標準治療として,HER2陰性の場合にはフッ化ピリミジン系薬剤+プラチナ系薬剤併用療法,さらに,HER2陽性の場合にはトラスツズマブを併用することが推奨される。しかし,標準治療に用いられるシスプラチン,オキサリプラチンともに重金属であるプラチナを含んでおり,その蓄積毒性として,末梢神経障害や内耳障害などの神経毒性が問題とされている。
 シスプラチンの末梢神経障害はオキサリプラチンと比較すると軽度ではあるが,総投与量が積算で300 mg/m2を超えたあたりから発現し[1],不可逆的であるため,総投与量500 mg/m2を目安として中止されることが多い。実際に,ToGA試験[2]ではシスプラチンの総投与量が500 mg/m2を超えないように,カペシタビンとシスプラチンの併用は6コース(80 mg/m2×6)までとされ,以降は増悪まで無治療経過観察,カペシタビンおよびトラスツズマブそれぞれの単独,または,カペシタビンとトラスツズマブの併用が継続されていた。その他の臨床試験でも,神経毒性やその他の毒性によりシスプラチンを中止した後には,フッ化プリミジン系薬剤単独(HER2陽性胃癌ではトラスツズマブ併用)を継続するものが多い。
 オキサリプラチンも,総投与量が850 mg/m2に達すると約10%の患者にGrade 3以上の神経障害が出現すると報告されており[3],また,重篤化すると回復まで時間を要する。オキサリプラチンの神経障害に対して有効な予防法はなく[4],発症後には有痛性の神経障害に限ったデュロキセチンの有効性が報告されているが[5],神経障害を軽減する治療法は確立していないため,重篤化する前に適切に減量・休薬を行う必要がある。本邦において胃癌に対するオキサリプラチンの有効性を検証したG-SOX試験[6]においても,神経毒性などの有害事象によりオキサリプラチンを中止した後にはS-1のみが継続されていた。
 大腸癌のOPTIMOX2試験[7]では,完全に化学療法を一時的に休薬することの意義が否定されている。胃癌においては同様の比較試験はないが,上述のように切除不能・再発胃癌に対する一次化学療法における標準治療の根拠となる比較試験において,プラチナ系薬剤中止後にはフッ化ピリミジン系薬剤単独が継続投与されていた。Evidence based medicineを行うに際して,臨床試験で得られた結果を再現するためには,休薬や減量,中止について可能な限りその臨床試験のプロトコールに沿って治療が行われるべきである。したがって,切除不能進行・再発胃癌の一次化学療法において,増悪以外の理由によるプラチナ系薬剤中止後の,フッ化ピリミジン系薬剤単独(HER2陽性胃癌ではトラスツズマブ併用)を継続投与することが強く推奨される。

[1] Gregg RW, Molepo JM, Monpetit VJ, et al: Cisplatin neurotoxicity: the relationship between dosage, time, and platinum concentration in neurologic tissues, and morphologic evidence of toxicity. J Clin Oncol 1992; 10: 795‒803.
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[3] Grothey A: Oxaliplatin-safety profile: neurotoxicity. Semin Oncol 2003; 30 Suppl 15: 5‒13.
[4] Hershman DL, Lacchetti C, Dworkin RH, et al: Prevention and management of chemotherapy-induced peripheral neuropathy in survivors of adult cancers: American Society of Clinical Oncology clinical practice guideline. J Clin Oncol 2014; 32: 1941‒67.
[5] Smith EM, Pang H, Cirrincione C, et al: Effect of duloxetine on pain, function, and quality of life among patients with chemotherapy-induced painful peripheral neuropathy: a randomized clinical trial. JAMA 2013; 309: 1359‒67.
[6] Yamada Y, Higuchi K, Nishikawa K, et al: Phase III study comparing oxaliplatin plus S-1 with cisplatin plus S-1 in chemotherapy‒naïve patients with advanced gastric cancer. Ann Oncol 2015; 26: 141‒8.
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CQ 16
切除不能進行・再発胃癌の二次治療において単独療法は推奨されるか?

推奨文
切除不能進行・再発胃癌の二次治療において単独療法を条件付きで推奨する。
解説

 一次治療として,推奨レジメンであるフッ化ピリミジン系薬剤+プラチナ系薬剤の併用療法が使用された場合,二次治療にはタキサン系薬剤,イリノテカン,ラムシルマブが使用可能な薬剤である。海外においてBSC群をコントロールアームとして,上記薬剤の単独治療群との比較試験が行われた。イリノテカンとBSCの比較試験がドイツで行われ,両群合わせた症例数40例,イリノテカンの生存期間中央値が4.0カ月,BSC群の生存期間中央値が2.4カ月(ハザード比[HR]:0.48,p=0.0012)であった[1]。また,韓国では二次治療(約75%),三次治療(約25%)の症例を対象に化学療法群(ドセタキセルまたはイリノテカンの担当医選択)とBSCの第Ⅲ相比較試験が行われ,化学療法群の生存期間中央値が5.3カ月,BSC群の生存期間中央値が3.8カ月で(HR:0.657,p=0.007)あった[2]。さらに,英国では二次治療を対象にドセタキセルとBSCの第Ⅲ相比較試験(COUGAR-02試験)が行われ,化学療法群の生存期間中央値が5.2カ月,BSC群の生存期間中央値が3.6カ月(HR:0.67,p=0.01)であった[3]。これらBSCとの比較試験ではいずれも化学療法単独療法の有意な生存期間延長が認められた。
 本邦では従来,二次治療としてタキサン系薬剤やイリノテカンが行われることが多かったためにBSCをコントロールとする試験デザインではなく,当時実地臨床で最も汎用行されていたパクリタキセル(毎週法)をコントロールにおき,イリノテカンの生存期間における優越性を検証するデザインでの第Ⅲ相比較試験(WJOG4007試験)が行われた。本試験は,イリノテカンのパクリタキセル(毎週法)に対する優越性は検証されなかったものの,パクリタキセル(毎週法)の生存期間中央値が9.5カ月,イリノテカンの生存期間中央値が8.4カ月(HR:1.13,p=0.38)[4]と,海外で行われた二次治療の比較試験で得られた化学療法群の生存期間を大きく上回る良好な治療成績が確認された。本試験の良好な生存期間は,パクリタキセル(毎週法)群で89%(イリノテカンが74%),イリノテカン群で71%(タキサン系薬剤が60%)と,両群ともに三次治療移行割合が高かったことが要因と考察された。すなわち,投与可能であれば二次,三次治療としてタキサン系薬剤とイリノテカンと両剤の治療を行うことにより良好な生存成績に寄与すると考えられる。最近,パクリタキセル(毎週法)をコントロールアームとして,ナブパクリタキセル(毎週法),ナブパクリタキセル(3週法)をそれぞれ試験アームとして3群を比較する臨床試験(ABSOLUTE試験)が行われ,パクリタキセル(毎週法)群の生存期間中央値10.9カ月,ナブパクリタキセル(毎週法)群の生存期間中央値11.1カ月,ナブパクリタキセル(3週法)群の生存期間中央値10.3カ月であった。パクリタキセル(毎週法)に対するナブパクリタキセル(毎週法)の非劣性が証明(HR:0.97,97.5%信頼区間:0.76‒1.23,non-inferiority one-sided p=0.0085)された。一方,パクリタキセル(毎週法)に対するナブパクリタキセル(3週法)の非劣性は検証されなかった(HR:1.06,95%信頼区間:0.87‒1.31,non-inferiority one-sided p=0.062)[5]
 さらに,二次治療において,分子標的治療薬を用いた臨床試験が複数行われたが,抗VEGFR2抗体薬であるラムシルマブは,2つの国際共同試験において生存期間の優越性が検証された。BSC(プラセボ)との比較試験(REGARD試験)では,ラムシルマブ群の生存期間中央値が5.2カ月,BSC群の生存期間中央値が3.8カ月(HR:0.774,p=0.042)であった[6]。また,ラムシルマブとパクリタキセル(毎週法)の併用療法群をプラセボ+パクリタキセル(毎週法)併用療法群と比較した臨床試験(RAINBOW試験)では,ラムシルマブ+パクリタキセル(毎週法)併用療法群の生存期間中央値が9.63カ月,プラセボ+パクリタキセル(毎週法)併用療法群の生存期間中央値が7.36カ月(HR:0.807,p=0.0169)であった[7]。両試験において,いずれも試験アームであるラムシルマブ併用群で有意な生存期間延長を認めた。
 RAINBOW試験では,日本人が140例登録され解析対象となったこと,ラムシルマブ+パクリタキセル(毎週法)併用療法群の生存期間中央値が9.63カ月と良好であったこと,プラセボ+パクリタキセル(毎週法)併用療法群との比較で生存期間の優越性が検証されたことから,二次治療においてラムシルマブ+パクリタキセル(毎週法)併用療法が推奨されるレジメンである。一方,BSCとの比較試験や単独療法間の比較試験で非劣性を認めた薬剤である,ラムシルマブ単独療法やパクリタキセル(毎週法),ドセタキセル,イリノテカン,ナブパクリタキセル(毎週法)単独療法はいずれもラムシルマブ+パクリタキセル(毎週法)併用療法が適応とならない症例に対して条件付きで推奨される。一方,ナブパクリタキセル(毎週法)+ラムシルマブ併用療法は日本人患者を対象に第Ⅱ相試験が行われ,安全性と有効性が確認された[8]ことから,この併用療法も条件付きで推奨される。

[1] Thuss-Patience PC, Kretzschmar A, Bichev D, et al: Survival advantage for irinotecan versus best supportive care as second-line chemotherapy in gastric cancer‒‒a randomisedphase III study of the Arbeitsgemeinschaft Internistische Onkologie (AIO). Eur J Cancer 2011; 47: 2306‒14.
[2] Kang JH, Lee SI, Lim DH, et al: Salvage chemotherapy for pretreated gastric cancer: a randomized phase III trial comparing chemotherapy plus best supportive care with best supportive care alone. J Clin Oncol 2012; 30: 1513‒18.
[3] Ford HE, Marshall A, Bridgewater JA, et al: Docetaxel versus active symptom control for refractory oesophagogastric adenocarcinoma (COUGAR-02): an open-label, phase 3 randomised controlled trial. Lancet Oncol 2014; 15: 78‒86.
[4] Hironaka S, Ueda S, Yasui H, et al: Randomized, open-label, phase III study comparing irinotecan with paclitaxel in patients with advanced gastric cancer without severe peritoneal metastasis after failure of prior combination chemotherapy using fluoropyrimidine plus platinum: WJOG 4007 trial. J Clin Oncol 2013; 31: 4438‒44.
[5] Shitara K, Takashima A, Fujitani K, et al: Nab-paclitaxel versus solvent-based paclitaxel in patients with previously treated advanced gastric cancer (ABSOLUTE): an open-label, randomised, non-inferiority, phase 3 trial. Lancet Gastroenterology & Hepatology 2017; 2: 277‒87.
[6] Fuchs CS, Tomasek J, Yong CJ, et al: Ramucirumab monotherapy for previously treated advanced gastric or gastro-oesophageal junction adenocarcinoma (REGARD): an international, randomised, multicentre, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet 2014; 383: 31‒9.
[7] Wilke H, Muro K, Van Cutsem E et al: Ramucirumab plus paclitaxel versus placebo plus paclitaxel in patients with previously treated advanced gastric or gastro-oesophageal junction adenocarcinoma (RAINBOW): a double-blind, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol 2014; 15: 1224‒35.
[8] 下平秀樹,坂東英明,藤谷和正,他: 切除不能進行・再発胃癌患者に対する二次治療としてのnab-PTX/RAM療法の第II相試験.第55 回日本癌治療学会学術集会抄録番号P162‒3,2017. (Eur J Cancer, in press)

CQ 17
HER2陽性切除不能進行・再発胃癌の二次治療においてトラスツズマブの継続投与は推奨されるか?

推奨文
HER2陽性切除不能進行・再発胃癌の二次治療においてトラスツズマブを継続しないことを推奨する。
解説

 HER2陽性胃癌に対する二次治療の抗HER2療法は,日本も参加した国際共同治験として2つの比較試験が行われた。アジア国際共同治験としてEpidermal growth factor receptor(ErbB1/HER1)とHER2(ErbB2)の両者を標的としたチロシンキナーゼ阻害薬であるlapatinibとパクリタキセル(毎週法)の併用療法をパクリタキセル(毎週法)単独療法と比較する臨床試験(TyTAN試験)が行われ,lapatinib+パクリタキセル(毎週法)併用療法群の生存期間中央値が11.0カ月,パクリタキセル(毎週法)単独療法群の生存期間中央値が8.9カ月(HR:0.84,p=0.1044)と,lapatinib群の優越性は検証されなかった[1])。また,trastuzumab emtansine(T-DM1)をパクリタキセル(毎週法)単独療法あるいはドセタキセル単独療法と比較する国際共同治験(GATSBY試験)が行われ,T-DM1群の生存期間中央値が7.9カ月,タキサン群の生存期間中央値が8.6カ月(HR:1.15,p=0.8589)であった[2]。TyTAN試験,GATSBY試験の両試験において,それぞれの抗HER2療法はコントロールアームであるタキサン系薬剤に対して生存期間の延長効果を認めなかった。一次治療にトラスツズマブが投与された症例の割合は,TyTAN試験で5~6%,GATSBY試験で75.9~79.5%であり,前治療のトラスツズマブ使用にかかわらず,二次治療における抗HER2療法の有用性は確認されなかった。
 HER2陽性転移性乳癌では,一次治療としてトラスツズマブが使用されて増悪確認後の二次治療としてトラスツズマブの継続投与の有効性が報告されているが,HER2陽性胃癌に関しては,トラスツマブ継続投与に対してエビデンスレベルの低い報告があるのみで,現時点で前向き臨床試験のエビデンスは存在しない。また,上述のlapatinibもT-DM1も乳癌では良好な結果を示したのにもかかわらず胃癌では有効性を示さなかった。さらに,一次治療のトラスツズマブ治療中の生検によりHER2発現が消失する例が少なくないとの報告(34%<23例中8例の消失>)[3]もある。これらの結果は,HER2陽性胃癌に対してトラスツズマブの継続投与の意義の乏しさを示唆するものであり,現時点では推奨されない。現在本邦で,トラスツズマブの継続投与の意義を検討する比較第Ⅱ相試験(WJOG 7112 G試験,UMIN000009297)が行われており[4],結果が待たれる。
 一方,一次治療にトラスツズマブが使用されていない症例に対して二次治療としてのパクリタキセル(毎週法)+トラスツズマブ併用療法の第Ⅱ相試験(JFMC45-1102試験)が本邦で行われ,症例数47例,奏効割合37%,無増悪生存期間中央値5.1カ月,全生存期間中央値17.1カ月と良好な治療成績を認めた[5]。HER2陽性胃癌に対して,一次治療でトラスツズマブが使用されていない場合には,二次治療での使用を考慮する(条件付き推奨)。

[1] Satoh T, Xu RH, Chung HC et al: Lapatinib plus paclitaxel versus paclitaxel alone in the second-line treatment of HER2-amplified advanced gastric cancer in Asian populations: TyTAN‒a randomized, phase III study. J Clin Oncol 2014; 32: 2039‒49.
[2] Kang Y-K, Shah MA, Ohtsu A, et al: A randomized, open-label, multicenter, adaptive phase 2/3 study of trastuzumab emtansine (T-DM1) versus a taxane (TAX) in patients (pts) with previously treated HER2-positive locally advanced or metastatic gastric/gastroesoph ageal junction adenocarcinoma (LA/MGC/GEJC). J Clin Oncol 2016; 34 suppl 4S: 5.
[3] Janjigian YY, Riches JC, Ku GY, et al: Loss of human epidermal growth factor receptor 2 (HER2) expression in HER2-overexpressing esophagogastric (EG) tumors treated with trastuzumab. J Clin Oncol 2015; 33 suppl 4S: 63.
[4] Esaki T, Makiyama A, Kashiwada T, et al: T-ACT (WJOG7112G): A randomized phase II study of weekly paclitaxel±trastuzumab in patients with HER2-positive advanced gastric or gastro-esophageal junction cancer refractory to trastuzumab combined with fluoropyrimidine and platinum. J Clin Oncol 2017; 35 suppl 4: TPS218.
[5] Nishikawa K, Takahashi T, Takaishi H, et al: Phase II study of the effectiveness and safety of trastuzumab and paclitaxel for taxane- and trastuzumab-naïve patients with HER2-positive,previously treated, advanced, or recurrent gastric cancer (JFMC45-1102). Int J Cancer2017; 140: 188‒96.

CQ 18
切除不能進行・再発胃癌の二次治療においてS-1の継続投与は推奨されるか?

推奨文
切除不能進行・再発胃癌の二次治療においてS-1を継続しないことを推奨する。
解説

 切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法の治療戦略として,一次治療でフッ化ピリミジン系薬剤を使用した後の二次治療においても,フッ化ピリミジン系薬剤を継続投与することのコンセンサスが得られている。そのために,胃癌においても一次治療に用いられたS-1を継続使用することが一部の日常臨床では行われていた。JACCRO GC05試験[1]では,S-1継続投与の意義を検証することを目的として,一次治療にS-1単独またはシスプラチンやドセタキセルなどS-1とイリノテカン以外の薬剤との併用療法が施行された患者に対して,二次治療として,2週毎のイリノテカン単独療法とS-1(2週投与1週休薬)と3週毎のイリノテカン併用療法が第Ⅲ相試験として比較された。その結果,二次治療におけるS-1の継続投与は,生存期間中央値の有意な改善が得られず(生存期間中央値8.8カ月vs. 9.5カ月,HR:0.99,p=0.92),さらに発熱性好中球減少や下痢などの有害事象の増強が示された。また,同様の探索的試験(CCOG0701試験)においても有効性が確認されなかった[2]。これらの結果をもってS-1の継続は臨床的意義が否定され,切除不能進行・再発胃癌の二次治療においてS-1の継続投与は推奨されない。

[1] Tanabe K, Fujii M, Nishikawa K, et al; JACCRO GC-05 study group: Phase II/III study of second-line chemotherapy comparing irinotecan-alone with S-1 plus irinotecan in advanced gastric cancer refractory to first-line treatment with S-1 (JACCRO GC-05). Ann Oncol2015; 26: 1916‒22.
[2] Nakanishi K, Kobayashi D, Mochizuki Y, et al: Phase II multi-institutional prospective ran-domized trial comparing S-1 plus paclitaxel with paclitaxel alone as second-line chemotherapy in S-1 pretreated gastric cancer (CCOG0701). Int J Clin Oncol 2016; 21: 557‒65.

CQ 19
切除不能進行・再発胃癌の三次治療以降において化学療法は推奨されるか?

推奨文
切除不能進行・再発胃癌に対して三次治療以降にはニボルマブやイリノテカンによる化学療法を推奨する。
解説

 本邦で施行された二次治療におけるイリノテカンとパクリタキセル(週1回投与法)を比較した第Ⅲ相試験(WJOG4007試験)での両群の生存期間中央値(パクリタキセル群9.5カ月,イリノテカン群8.4カ月,HR:1.18,p=0.38)は,海外で施行された二次化学療法の臨床試験よりも明らかに良好であった。本試験では,三次治療移行割合がパクリタキセル群で89%(イリノテカン使用が74%),イリノテカン群で71%(タキサン系薬剤の使用が60%)であり,両群とも三次治療移行割合が高かったことが,良好な全生存期間の要因であると考察された[1]。以上のことから,全身状態が良好ならば,三次治療としてそれぞれ別のレジメン(二次化学療法がタキサン系薬剤なら三次化学療法はイリノテカン,二次化学療法がイリノテカンなら三次化学療法はタキサン系薬剤)を行うことを考慮する。その後パクリタキセルとラムシルマブの併用療法が良好な成績を示したことから,イリノテカンは主に三次治療で用いられることが現在の主流である(推奨される)。
 抗PD-1モノクロナル抗体であるニボルマブは,腫瘍がPD-1とPD-1リガンドの経路を活性化することによって免疫から回避する機序を阻害することで抗癌作用を発揮する薬剤である。ATTRACTION-2(ONO-4538-12)試験では,2レジメン以上の前治療のある進行胃癌患者対象に,プラセボとニボルマブ(3 mg/kg 2週毎に投与)が第Ⅲ相試験として比較されたが,ニボルマブ群がプラセボ群に対して主要評価項目である全生存期間を有意に延長し,生存期間中央値はニボルマブ群で5.26カ月,プラセボ群で4.14カ月(HR:0.63,p<0.0001)であった(推奨される)[2]。本試験は,切除不能進行・再発胃癌に対する三次治療としての化学療法の延命効果を証明した臨床試験であるとともに,本試験によって免疫チェックポイント阻害剤の胃癌における有効性が検証された。しかし,これまでの化学療法では経験しなかった免疫関連の重篤な有害事象が報告されており,ATTRACTION-2(ONO-4538-12)試験ではその頻度は高くなかったものの,免疫関連有害事象への対応を整える必要がある。
 このように,二次化学療法終了後に良好な全身状態が維持されている場合には,三次化学療法を考慮すべきであるが,化学療法の適応については慎重に判断すべきである。

[1] Hironaka S, Ueda S, Yasui H, et al: Randomized, open-label, phase III study comparing irinotecan with paclitaxel in patients with advanced gastric cancer without severe peritoneal metastasis after failure of prior combination chemotherapy using fluoropyrimidine plus platinum: WJOG 4007 trial. J Clin Oncol 2013; 31: 4438‒44.
[2] Kang YK, Boku N, Satoh T et al: Nivolumab in patients with advanced gastric or gastrooesophageal junction cancer refractory to, or intolerant of, at least two previous chemotherapy regimens (ONO-4538-12, ATTRACTION-2): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet 2017; 390: 2461‒71.

CQ 20
胃切除された腹腔洗浄細胞診陽性(CY1)症例に対して化学療法は推奨されるか?

推奨文
胃切除された腹腔洗浄細胞診陽性(CY1)症例に対して化学療法を行うことを推奨する。
解説

 本邦では術中に腹腔洗浄細胞診が行われることが一般的であり,これが陽性(CY1)であればM1となり治癒切除にはならないが,CY1の他に非治癒因子がない場合には定型手術がなされることが少なくない。CY1症例における胃切除後の過去の治療成績をみると,生存期間中央値が12カ月前後,5年生存率が7.8%と不良であったが[1],これには手術のみの症例が含まれていた。
 CCOG0301試験では,切除可能な微小腹膜転移陽性例を含むCY1の47例に対し,定型手術後に通常量のS-1を再発まで投与したところ,無再発生存期間および全生存期間の中央値はそれぞれ376日,705日であり,5年無再発生存率および全生存率は21%,26%であった[2]。また,単独施設の後方視的検討ではあるが,胃切除されたCY1症例に対してS-1による化学療法が施行された120症例の5年生存率は26.6%であったとの報告があり[3],再現性が示されている。これらの成績はS-1登場以前の報告[1]と比べて良好であり,高頻度で腹膜転移をきたすスキルス胃癌の治癒切除後の治療成績にも匹敵する[4]
 2015年に発表されたCY1胃癌に対する研究のメタアナリシスでは9件の報告が検討され,ヒストリカルコントロールに対するS-1単独療法の有用性と,温熱化学療法(Hyperthermic Intraperitoneal Chemo-Perfusion,HIPEC)を含む腹腔内化学療法の有用性が示唆されている[5]。また,切除不能例に対する一次化学療法として,フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法も選択肢の一つであると考えられるが,これらの併用療法の本対象に対する有効性についての報告はない。
 以上より,CY1症例に対して,既に原発巣が切除された症例では何らかの化学療法を行うことが推奨されるが,化学療法レジメンおよびその期間についてはコンセンサスが得られていない。このように,術前を含めた化学療法と切除のタイミング,至適化学療法レジメンやその実施期間についてのエビデンスは存在しないため,集学的な治療法の詳細については今後の課題である。

[1] Bando E, Yonemura Y, Takeshita Y, et al: Intraoperative lavage for cytological examination in 1,297 patients with gastric carcinoma. Am J Surg 1999; 178: 256‒62.
[2] Kodera Y, Ito S, Mochizuki Y, et al: Long-term follow up of patients who were positive forperitoneal lavage cytology: final report from the CCOG0301 study. Gastric Cancer 2012; 15: 335‒7.
[3] Bando E, Makuuchi R, Miki Y, et al: Clinical significance of intraoperative peritoneal cytologyin Gastric Carcinoma―Analysis of 3142 patients―. 10th International Gastric Cancer Congress. abstract#P27‒5, 2013
[4] Kinoshita T, Sasako M, Sano T, et al: Phase II trial of S-1 for neoadjuvant chemotherapy against scirrhous gastric cancer (JCOG 0002). Gastric Cancer 2009; 12: 37‒42.
[5] Cabalag CS, Chan ST, Kaneko Y, et al: A systematic review and meta-analysis of gastric cancer treatment in patients with positive peritoneal cytology. Gastric Cancer 2015; 18: 11‒22.

CQ 21
高度腹膜転移による経口摂取不能または大量腹水を伴う症例に対して化学療法は推奨されるか?

推奨文
高度腹膜転移による経口摂取不能または大量腹水を伴う症例では,全身状態を慎重に評価したうえで化学療法を行うことを条件付きで推奨する。
解説

 高度腹膜転移による経口摂取不能または大量腹水を伴う症例に対しても,化学療法適応の原則に則り全身状態を評価して適応を慎重に検討することが前提となる。このような症例は全身状態不良で化学療法の適応外となることが少なくなく,限られた症例のみが適応となる。しかし高度腹膜転移による経口摂取不能または大量腹水を伴う症例では,経口内服および利尿目的の補液が困難となるため標準的な一次化学療法を施行できない場合が多く,これらに対する標準治療は確立していない。一方,比較試験による生存期間延長およびQOLへの寄与について十分な評価がなされていないものの,5-FU,パクリタキセル単独による治療での腹水の減少効果や経口摂取の改善が報告されている[1,2]。このように化学療法は症状改善が期待されるため,best supportive careと並ぶ選択肢となりうる。
 画像で診断された腹膜転移を有する症例を対象とした臨床第Ⅲ相試験(JCOG0106試験)[1]では,5-FU持続静注療法(5-FUci)とメトトレキサート+5-FUの時間差療法が比較された。生存期間に有意な差はなく(9.4カ月vs 10.6カ月,HR:0.94,p=0.31),5-FUciの毒性が低いことが示された。さらに持続点滴を要するほど経口摂取困難な症例のサブセットにおいて,5-FUciにより41%で経口摂取の改善が得られた。これらの結果より,毒性の少ない5-FUciは選択肢の一つである。ただし,この臨床試験では大量腹水症例は除外されていたため解釈には注意を要する。また,現在は5-FUciに代わって5-FU+レボホリナートカルシウム(l-LV)が用いられていることが多く[3],下記のJCOG1108/WJOG7312G試験でもコントロールアームとして採用されている(条件付き推奨)。ただし,大量腹水があり,かつPS 2以上などの全身状態不良な症例に対しては,化学療法は推奨されない。
 腹膜転移例に対する二次治療におけるBest available 5-FUとパクリタキセル毎週投与法とを比較したランダム化第Ⅱ相試験(JCOG0407)[4]では,パクリタキセル毎週投与法が,無増悪生存期間は長かったものの,全生存期間には大きな差はなかった。毒性はパクリタキセル毎週投与法の方が軽度であることから,高度腹膜転移症例に対して選択可能の一つとして挙げることができる(条件付き推奨)。
 その他,併用化学療法としては,5-FU+l-LVにパクリタキセルを加えたFLTAX療法の第Ⅱ相試験[5]が報告されており,腹水に対する効果が44%に得られた(条件付き推奨)。現在,5-FU+l-LVとFLTAXの比較試験(JCOG1108/WJOG7312G試験,UMIN000010949)が進行中である。また,FOLFOX療法の第Ⅱ相試験[6]では,腹水の減少が35.4%に得られた。ただし,G3以上の好中球減少が18.8%,発熱性好中球減少症が2.6%に認められている(条件付き推奨)。

[1] Shirao K, Boku N, Yamada Y, et al: Randomized Phase III study of 5-fluorouracil continuous infusion vs. sequential methotrexate and 5-fluorouracil therapy in far advanced gastric cancerwith peritoneal metastasis (JCOG0106). Jpn J Clin Oncol 2013; 43: 972‒80.
[2] Imamoto H1, Oba K, Sakamoto J, et al: Assessing clinical benefit response in the treatment of gastric malignant ascites with non-measurable lesions: a multicenter phase II trial of paclitaxel for malignant ascites secondary to advanced/recurrent gastric cancer. Gastric Cancer 2011; 14: 81‒90.
[3] Hara H, Kadowaki S, Asayama M, et al: First-line bolus 5-fluorouracil plus leucovorin for peritoneally disseminated gastric cancer with massive ascites or inadequate oral intake. Int J Clin Oncol 2017 Oct 16. doi: 10.1007/s10147-017-1198-7.
[4] Nishina T, Boku N, Gotoh M, et al: Randomized phase II study of best-available 5-fluorouracil (5-FU) versus weekly paclitaxel in gastric cancer (GC) with peritoneal metastasis (PM) refractory to 5-FU-containing regimens (JCOG0407). Gastric Cancer 2016; 19: 902‒10.
[5] Iwasa S, Goto M, Yasui H, et al: Multicenter feasibility study of combination therapy with fluorouracil, leucovorin and paclitaxel (FLTAX) for peritoneal disseminated gastric cancer with massive ascites or inadequate oral intake. Jpn J Clin Oncol 2012; 42: 787‒93.
[6] Oh SY, Kwon HC, Lee S, et al: A Phase II study of oxaliplatin with low-dose leucovorin and bolus and continuous infusion 5-fluorouracil (modified FOLFOX-4) for gastric cancer patients with malignant ascites. Jpn J Clin Oncol 2007; 37: 930‒5.

CQ 22
高齢の切除不能進行・再発胃癌症例に対して化学療法は推奨されるか?

推奨文
高齢の切除不能進行・再発胃癌症例では,患者の状態を慎重に評価し適切なレジメンを選択したうえで化学療法を行うことを条件付きで推奨する。
解説

 70歳以上の胃癌罹患者数は年間約82,000人と推計され(2013年),これは全胃癌罹患者全体の約60%に相当する。また,70歳以上の胃癌死亡数は年間約35,000人と推計され(2015年),これは全胃癌死亡数の約75%に相当する[1]。すなわち高齢の切除不能進行・再発胃癌患者が化学療法の対象となる可能性は十分あり,治療のコンセンサスを得ることは重要である。
 世界保健機構,日米EU医薬品規制調和国際会議におけるICH-E7「高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン」では,65歳以上を高齢者と定めている[2]。ただし,治療方針の決定にあたり,高齢者を一概に年齢により定義するのは必ずしも適切とは考えられていない。周知のとおり,高齢者は,若年者と比較して身体的,精神的,社会的に異なる点が多い。日本老年医学会「高齢者に対する適切な医療提供の指針」では,高齢者と若年者を区別して薬物療法を実施するべきであると提言されている[3]。また,NCCNガイドラインOlder adult oncologyでは,患者を余命,意思決定能力,治療目標,副作用リスクによってfit/vulnerable/unfit(適応/脆弱/不適応)に分類し,標準治療,減量治療,対症療法を選択することが提案されている[4]
 切除不能胃癌に対する治療開発は,これまで比較的若年の患者を対象に進められてきた。JCOG9912試験,SPIRITS試験により,一次治療にはS-1+シスプラチン併用療法(SP療法)が標準治療として最も広く使われているが,これらの臨床試験には75歳以上の患者は含まれていない[5,6]。SPIRITS試験で行われた年齢別のサブセット解析では,60歳以下ではSP療法がS-1単独療法よりOSは良好(HR:0.75,p=0.14)であったが,60~69歳ではHR:0.98,70~74歳ではHR:0.9と,高年齢層でSP療法の有効性は乏しい傾向にあった[6]。また,75歳以上の日本の胃癌患者に対するS-1単独療法の第Ⅱ相試験では,奏効率21.2%,無増悪生存期間中央値3.9カ月,生存期間中央値15.7カ月と,JCOG9912試験のS-1単独療法群と同等の効果が示された[7]。これらの結果は,高齢者切除不能胃癌に対して必ずしもプラチナを含む2剤併用療法でなくてもS-1単独でも同等の効果が得られる可能性を示唆するものである。
 また,切除不能胃癌に対する一次治療のS-1+オキサリプラチン併用療法(SOX療法)のSP療法に対する非劣性を検証したG-SOX試験でも年齢別(70歳以上群と70歳以下群)サブセット解析が行われた[8]。年齢とSOX療法,SP療法の有効性には有意な交互作用はなかったが,70歳以上群ではSOX療法はSP療法より良好な傾向を認めた(生存期間中央値17.5カ月vs. 13.5カ月,HR:0.857,p=0.325;治療成功期間中央値5.5カ月vs. 4.3カ月,HR:0.683,p=0.008)。
 一方,韓国では,70歳以上の患者に対するカペシタビン+オキサリプラチン併用療法(CapeOX療法)とカペシタビン単独療法の全生存期間を比較する第Ⅲ相試験が行われた[9]。50例登録後の中間解析において,CapeOX療法群の生存期間中央値は11.1カ月,カペシタビン単独療法群では6.3カ月(HR:0.60,p=0.108)であったため,有効中止となった。臨床試験に登録可能な全身状態の保たれた患者に限られた結果であることに注意が必要であるが,高齢者切除不能胃癌でも,有害事象が比較的軽度なフッ化ピリミジン系薬剤とオキサリプラチンの併用療法がより有効であることが示唆された。本邦では,SOX療法のS-1に対する生存における優越性を検証するランダム化第Ⅱ相試験(WJOG8315G試験)が進行中である[10]
 このように,高齢者切除不能胃癌に対する標準治療は確立されていない。しかし,生存延長の可能性があることから,患者の状態に合った適切な治療の実施が望まれる。また,患者の状態をより適切に評価するため,国際老年学会では身体機能,依存症,認知機能,精神機能,社会的支援,栄養,老年症候群などの評価項目を含んだ高齢者総合的機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment,CGA)を提唱しており[11],今後これらの評価指標による治療選択の有用性も検証される必要がある。

[1] 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」 http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html
[2] 日米EU 医薬品規制調和国際会議.ICH-E7 高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0029.html
[3] 日本老年医学会 高齢者に対する適切な医療提供の指針 www.jpn-geriat-soc.or.jp/index.html
[4] VanderWalde N, Jagsi R, Dotan E, et al: NCCN Guidelines Insights: Older Adult Oncology, Version 2.2016. J Natl Compr Canc Netw 2016; 14: 1357‒70.
[5] Boku N, Yamamoto S, Fukuda H, et al: Fluorouracil versus combination of irinotecan plus cisplatin versus S-1 in metastatic gastric cancer: a randomised phase 3 study. Lancet Oncol 2009; 10: 1063‒9.
[6] Koizumi W, Narahara H, Hara T, et al: S-1 plus cisplatin versus S-1 alone for first-line treatment of advanced gastric cancer (SPIRITS trial): a phase III trial. Lancet Oncol 2008; 9: 215‒21.
[7] Koizumi W, Akiya T, Sato A, et al: Phase II study of S-1 as first-line treatment for elderlypatients over 75 years of age with advanced gastric cancer: the Tokyo Cooperative OncologyGroup study. Cancer Chemother Pharmacol 2010; 65: 1093‒9.
[8] Bando H, Yamada Y, Tanabe S, et al: Efficacy and safety of S-1 and oxaliplatin combinationtherapy in elderly patients with advanced gastric cancer. Gastric Cancer 2016; 19: 919‒26.
[9] Hwang IG, Ji JH, Kang JH, et al: A multi-center, open-label, randomized phase III trial offirst-line chemotherapy with capecitabine monotherapy versus capecitabine plus oxaliplatinin elderly patients with advanced gastric cancer. Geriatr Oncol 2017; 8: 170‒5.
[10] UMINID: 000020864. https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000023978
[11] Wildiers H, Heeren P, Puts M, et al: International Society of Geriatric Oncology Consensus on Geriatric Assessment in Older Patients With Cancer. J Clin Oncol 2014; 32: 2595‒603.

周術期補助化学療法に関するクリニカル・クエスチョン

CQ 23
胃癌の術後補助化学療法においてStageや組織型によって化学療法レジメンを選択することは推奨されるか?

推奨文
胃癌の術後補助化学療法においてStage Ⅱの場合はS-1単独療法を推奨する。胃癌の術後補助化学療法においてStage Ⅲの場合は患者毎にリスクベネフィットバランスを考慮し,S-1単独療法またはCapeOX療法などのオキサリプラチン併用療法を選択することを推奨する。
解説

 治癒切除されたpStage Ⅱ/IIIの胃癌に対する術後補助化学療法として,S-1単独療法は本邦で実施されたACTS-GC試験においてその有用性が検証され標準治療として位置付けられてきた(エビデンスレベルA)[1,2]。近年,オキサリプラチンの併用については,韓国を中心に実施されたCLASSIC試験において有用性が検証されたCapeOX療法(エビデンスレベルA)[3,4,5]およびSOX療法(エビデンスレベルB)[6]ともに,本邦での忍容性が確認され,日常診療において胃癌術後補助化学療法の標準治療の選択肢が増えた。
 しかし,これらの治療法を直接比較した試験がないため,試験間の間接比較やサブセット解析を参照して,病期や組織型(分化度)による使い分けが議論されている。ただし,サブセット解析自体が検証的なものではなく,さらにそれを用いた試験間での間接比較は「推測や考察でしかない」ことを十分意識する必要がある。
 ACTS-GC試験[1,2]とCLASSIC試験[3,4]を全体でみると,実施時期や年齢には差があるものの,症例数,T2/3病変の割合,リンパ節転移陽性症例の割合などは,ほぼ同等であった。また,手術単独群の治療成績をみると,ACTS-GC試験での5年無再発生存率とCLASSIC試験での5年無病生存率はともに53%であった。また,術後補助化学療法群の治療成績についても,ACTS-GC試験のS-1群での5年無再発生存率は65%であり,CLASSIC試験のCapeOX群での5年無病生存率も68%と,ほぼ同等であった。これに対して,5年全生存率はそれぞれ手術単独群では61%,69%であり,S-1群では72%,CapeOX群では78%であった。このように両試験の5年無再発生存率(ACTS-GC試験)と無病生存率(CLASSIC試験)がほぼ同じであるにもかかわらず,5年全生存率における5%以上の差は,再発後の化学療法などにおいて患者背景(年齢)や試験実施時期の違いによるものであると考えられる。そのため,以下では,無再発生存期間および無病生存期間を中心に,両試験のサブセットについて解説する。
 Stage Ⅱ/ⅢA/ⅢBのサブセットにおける手術単独と比べた無再発生存期間(無病生存期間)のハザード比(HR)は,S-1群では0.570(n=538)/0.629(n=444)/0.712(n=106)とStageが進むにつれて悪くなる傾向があるのに対して,CapeOX群では0.55(n=515)/0.61(n=377)/0.52(n=143)と一定の傾向はみられない。これらの結果より,Stage ⅡではS-1が良好であるのに対してStage ⅢBではCapeOXが良好にみえる。一方,T stageをみると,T2/3/4におけるS-1のハザード比は0.658(n=565)/0.655(n=444)/0.868(n=25)であるのに対して,CapeOXではT1‒2/3‒4で0.46(n=575)/0.72(n=460)と,上記とは逆にT stageの若い症例に対してCapeOX療法が良好にみえる。
 次に,組織型をみると,分化型(Grade 1, 2)/未分化型(Grade 3, 4, X)のサブセットのハザード比は,S-1では0.706(n=423)/0.657(n=608)であるのに対して,CapeOXでは0.51(n=333)/0.63(n=702)であり,さらに,全生存期間における分化型/未分化型のサブセットのハザード比は,S-1で0.670/0.673,CapeOXで0.50/0.77であることから,分化型にはCapeOX,未分化型でS-1と,組織型による両者の使い分けを考えることもできる。
 しかし,「印環細胞癌のT3N2のスキルス胃癌」など,個々の症例の背景には複数の因子があり,単純にStageや組織型のみではS-1とCapeOXを使い分けることはできず,現時点では,S-1単独療法とCapeOX併用療法またはSOX療法を使い分ける明確な基準は存在しない。
 一方,Stage Ⅱ症例に対しては,ACTS-GC試験での5年無再発および5年全生存率は79.2%/84.2%であった。これは約80%のStage Ⅱ症例ではS-1単独でも治癒が得られることを意味しており,S-1単独療法が優先されることについてはコンセンサスが得られている。逆に,Stage Ⅲ症例は予後不良であり,オキサリプラチンの併用は毒性を伴うが,大腸癌の術後補助化学療法の成績[7]からもオキサリプラチン併用による何らかの上乗せ効果が期待できるため,個々の症例において両者のリスクベネフィットを考慮し,患者の希望も合わせて,使い分けを検討することが重要である。
 大腸癌の術後補助化学療法におけるオキサリプラチンの上乗せ効果は大規模比較試験[7]で確認されているが,胃癌においては明らかなエビデンスがないため,今後比較試験での検証が望まれる。

[1] Sakuramoto S, Sasako M, Yamaguchi T, et al: Adjuvant chemotherapy for gastric cancer with S-1, an oral fluoropyrimidine. N Engl J Med 2007; 357: 1810‒20.
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[3] Bang YJ, Kim YW, Yang HK, et al: Adjuvant capecitabine and oxaliplatin for gastric cancerafter D2 gastrectomy (CLASSIC): a phase 3 open-label, randomised controlled trial. Lancet 2012; 379: 315‒21.
[4] Noh SH, Park SR, Yang HK, et al: Adjuvant capecitabine plus oxaliplatin for gastric cancer after D2 gastrectomy (CLASSIC): 5-year follow-up of an open-label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol 2014; 15: 1389‒96.
[5] Fuse N, Bando H, Chin K, et al: Adjuvant capecitabine plus oxaliplatin after D2 gastrectomy in Japanese patients with gastric cancer: a phase II study. Gastric Cancer 2017; 20: 332‒40.
[6] Shitara K, Chin K, Yoshikawa T, et al: Phase II study of adjuvant chemotherapy of S-1 plusoxaliplatin for patients with stage III gastric cancer after D2 gastrectomy. Gastric Cancer2017; 20: 175‒81.
[7] André T, Boni C, Mounedji-Boudiaf L, et al: Oxaliplatin, fluorouracil, and leucovorin as adjuvant treatment for colon cancer. N Engl J Med 2004; 350: 2343‒51.

CQ 24
術後補助化学療法施行中または終了後早期(6カ月以内)再発症例に対して補助化学療法で用いられた薬剤を含む化学療法は推奨されるか?

推奨文
術後補助化学療法施行中または終了後早期(6カ月以内)再発症例に対する化学療法には補助化学療法で用いられた同じ薬剤を用いないことを推奨する。
解説

 大腸癌では,最終投与後6カ月以内の早期再発か6カ月以降の再発かによって治療戦略が異なり,6カ月以降の再発例は,化学療法歴のない切除不能例と同様に一次治療として5-FUおよび新薬を含む標準治療が確立されている。一方,6カ月以内再発例は二次治療の対象として標準治療が構築されてきた。同様に最近の胃癌における臨床試験でも,術後補助化学療法終了6カ月以降の再発例は初回治療例として取り扱われ,術後補助療法後6カ月以内の再発例は二次治療例として取り扱われることが多い。
 胃癌においては,ACTS-GC試験[1]およびCLASSIC試験[2]により,S-1単独療法またはCapeOX療法による術後補助化学療法が標準治療として確立された。術後補助化学療法後の再発例に対する標準治療の確立は重要な課題であるが,そのエビデンスは確立されていない。
 多施設の後方視的検討で,S-1術後補助化学療法終了後6カ月以内再発例に対するS-1+シスプラチン併用療法の奏効率(5%)は,6カ月以降の再発例(37.5%)に比べて低かったとの報告があり[3],術後補助化学療法施行中または終了後早期(6カ月以内)再発症例に対する化学療法には補助化学療法で用いられた同じ薬剤を用いないことについて,エビデンスレベルは低いもののコンセンサスが得られている。
 補助療法後の早期再発例に対して用いるレジメンについては,下記(c)を除きガイドライン委員間でコンセンサスが得られなかった。6名のガイドライン委員(腫瘍内科医)による評決の結果を以下に示す。

a) S-1単独による補助化学療法終了後早期再発(HER2陰性例)
  CapeOX療法などフッ化ピリミジンとプラチナ系薬剤の併用を基本として,S-1をカペシタビンに変更する〔3名〕。パクリタキセル+ラムシルマブ〔3名〕。
b) S-1単独による補助化学療法終了後早期再発(HER2陽性例)
  CapeOXまたはカペシタビン+シスプラチンとトラスツズマブの併用療法〔4名〕。パクリタキセル+トラスツズマブ〔1名〕,パクリタキセル+ラムシルマブ〔1名〕。
c) CapeOXなどオキサリプラチンを含む併用療法による補助化学療法終了後早期再発(HER2陰性例)
  パクリタキセル+ラムシルマブ〔6名〕。
d) CapeOXなどオキサリプラチンを含む併用療法による補助化学療法終了後早期再発(HER2陽性例)
  S-1またはカペシタビン(術後補助化学療法に使用された薬剤は用いない)+シスプラチン+トラスツズマブ〔2名〕,パクリタキセル+トラスツズマブ〔3名〕,パクリタキセル+ラムシルマブ〔1名〕。

 このように,術後補助化学療法がS-1単独療法かCapeOX療法などオキサリプラチンを含む併用療法か,またHER2陽性か否かでその後の治療方針に様々な選択肢が存在するが,コンセンサスとして,術後補助化学療法に使用された同一薬剤は用いないことが推奨される。また,HER2陰性例のCapeOXなどオキサリプラチンを含む併用療法による術後補助化学療法後早期再発例に対しては,パクリタキセル(毎週投与法)+ラムシルマブ併用療法が推奨される。

[1] Sakuramoto S, Sasako M, Yamaguchi T, et al: Adjuvant chemotherapy for gastric cancer with S-1, an oral fluoropyrimidine. N Engl J Med 2007; 357: 1810‒20.
[2] Bang YJ, Kim YW, Yang HK, et al: Adjuvant capecitabine and oxaliplatin for gastric cancer after D2 gastrectomy (CLASSIC): a phase 3 open-label, randomised controlled trial. Lancet 2012; 379: 315‒21.
[3] Shitara K, Morita S, Fujitani K, et al: Combination chemotherapy with S-1 plus cisplatin for gastric cancer that recurs after adjuvant chemotherapy with S-1: multi-institutional retrospective analysis. Gastric Cancer 2012; 15: 245‒51.

CQ 25
Stage Ⅳ胃癌のR0切除後症例に対して術後補助化学療法は推奨されるか?

推奨文
Stage Ⅳ胃癌のR0切除後症例に対して術後補助化学療法を行うことを推奨する。
解説

 Stage Ⅳ胃癌のR0切除症例における補助化学療法の前向き比較試験はない。しかし,海外で行われた後方視的調査研究では,術後補助化学療法を施行した群で生存期間の有意な延長が認められると報告されている[1,2]。Stage Ⅳ切除不能胃癌において化学療法の生存における有用性が明らかであること,CY1(Stage Ⅳ)症例でも胃切除後化学療法により25%程度の5年生存が得られていること[3],さらにStage Ⅱ/Ⅲ胃癌の術後補助化学療法の有用性が明らかであること[4,5]より,Stage Ⅳ胃癌のR0切除後における術後補助化学療法の有用性が推測される。逆に,術後補助化学療法を行わずに厳重な経過観察により再発を早期確認しても,その後の外科的介入等局所療法による治癒率などの報告はない。したがってStage Ⅳ胃癌のR0切除後症例では術後補助化学療法を推奨するが,そのエビデンスは少なく,かつ今後も十分な研究成果が得られる可能性は高くないため,対象となる患者には,術後補助化学療法の目的,内容,根拠のみならず,治療効果の限界,見通しについても十分に説明する必要がある。
 Stage Ⅳ胃癌R0切除後の後方視的調査研究報告では,胃癌化学療法のKey Drugであるフッ化ピリミジン系薬剤およびプラチナ系薬剤,タキサン系薬剤等が様々なレジメンで使用されている。レジメン選択にあたっては,前向き試験が存在しないため,Stage III胃癌切除症例のデータを外挿するしかない。ACTS-GC試験[4]およびCLASSIC試験[5]から,現時点ではS-1単独療法1年間,あるいはCapeOXなどのオキサリプラチン併用療法6カ月間が推奨される。

[1] Tiberio GAM, Ministrini S, Gardini A, et al: Factors influencing survival after hepatectomy for metastases from gastric cancer. Eur J Surg Oncol 2016; 42: 1229‒35.
[2] Qiu JL, Deng MG, Li W, et al: Hepatic resection for synchronous hepatic metastasis from gastric cancer. Eur J Surg Oncol 2013; 39: 694‒700.
[3] Kodera Y, Ito S, Mochizuki Y, et al: Long-term follow up of patients who were positive for peritoneal lavage cytology: final report from the CCOG0301 study. Gastric Cancer 2012; 15: 335‒7.
[4] Sakuramoto S, Sasako M, Yamaguchi T et al: Adjuvant Chemotherapy for Gastric Cancer with S-1, an Oral Fluoropyrimidine. N Engl J Med 2007; 357: 1810‒20.
[5] Bang YJ, Kim YW, Yang HK, et al: Adjuvant capecitabine and oxaliplatin for gastric cancer after D2 gastrectomy (CLASSIC): a phase 3 open-label, randomised controlled trial. Lancet 2012; 379: 315‒21.

CQ 26
切除可能胃癌症例に対して術前補助化学療法は推奨されるか?

推奨文
切除可能胃癌症例に対する術前補助化学療法を,条件付き(高度リンパ節転移症例)で推奨する(CQ5も参照)。
解説

 欧米では,第Ⅲ相比較試験の結果に基づき,切除可能胃癌に対して術前補助化学療法(NAC)を行うことが標準治療となっている。しかし,胃癌の術前病期診断の正診率は高くなく,Stage Ⅱ/Ⅲと診断される症例の中にも周術期補助化学療法が不要なpStage Ⅰの混入が少なくないため[1],本邦では組織学的にStageを確認することができる術後補助化学療法について臨床試験が行われてきており,NACの意義は確立されていない。
 一方,高度リンパ節転移を伴う胃癌症例の予後は不良であり,これらの症例を対象にNACとしてS-1+シスプラチン併用療法を2~3サイクル施行後にD2郭清に大動脈周囲リンパ郭清を加えた手術を行う治療戦略の第Ⅱ相試験が行われ,良好な成績を示した[2](CQ5を参照)。単アームの試験結果であることからエビデンスレベルは高くないものの,この対象に限り標準的治療の一環として実施されるべきものと結論付けられている。しかしこれは第Ⅲ相比較試験のエビデンスではないため,S-1+シスプラチン併用のNACは高度リンパ節転移胃癌症例を対象とする条件付きで推奨される。
 大型3型・4型胃癌(P1, CY1を含む)に対する術前S-1+シスプラチン併用療法による第Ⅲ相比較試験(JCOG0501,UMIN C000000279)は症例登録が終了し,結果解析待ちである。また,高度リンパ節転移を伴わず,大型3型・4型でもないcT3‒4/N1‒3の局所進行胃癌における標準治療(術後S-1単独療法)に対する周術期化学療法(術前S-1+オキサリプラチン併用療法,術後S-1単独療法)を比較する第Ⅲ相試験(JCOG1509,UMIN 000024065)が登録中である。
 このように,胃癌に対するNACは,現時点では臨床試験段階であることを認識する必要があり,上記条件以外の日常診療ではNACを行わないことを推奨する。

[1] Fukagawa T, Katai H, Mizusawa J, et al: A prospective multi-institutional validity study to evaluate the accuracy of clinical diagnosis of pathological stage III gastric cancer (JCOG1302A). Gastric Cancer 2017; Feb 13. doi: 10.1007/s10120-017-0701-1. [Epub ahead ofprint]
[2] Tsuburaya A, Mizusawa J, Tanaka Y, et al: Neoadjuvant chemotherapy with S-1 and cisplatinfollowed by D2 gastrectomy with para-aortic lymph node dissection for gastric cancer with extensive lymph node metastasis. Br J Surg 2014; 101: 653‒60.