付 録
胃癌治療ガイドラインは,本邦において標準治療を広く医療現場に周知して適切に普及することを目的としており,その基礎資料として医療の実態を知ることが重要である。この胃がんQuality Indicator(QI)研究は,都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会がん登録部会を主体とし,国立がん研究センター研究班の協力により実施された。胃癌治療ガイドライン委員を含む専門家が選定した検討項目を,全国の参加施設から提供された「院内がん登録」と「DPC導入の影響に係る調査」のデータ(以下,DPCデータ)を用いて解析した。院内がん登録は,がん医療の均てん化を目的とし,がん診療連携拠点病院の指定要件として整備された。この登録情報は,罹患情報や初回治療の情報を含み,患者特性や各病院のがん診療の実態を明らかにするデータである。DPCデータでは日付ごとの診療行為の内容が明らかになるため,院内がん登録とリンクすることによりどのような患者に,いつ,特定の診療行為がなされたかを検討することが可能となる。検討項目は,標準治療のみではなく,診断過程の検査や,必ずしも標準治療が確立していない場合であっても,実態を表す項目についても指標とした。これらを総合してがん医療の均てん化の実態把握を行うものであり,臨床現場とガイドラインをつなぐ役割を果たすものと期待されている。本章においてはその概要を記す。なお,今回のデータ源では,治療開始施設において実施された診療行為が行われたかどうかのみが集計されていることから,他院治療や臨床判断などの理由の追加調査をさらに協力施設を募って,項目に示された診療が実施されなかった症例への未実施理由の収集と集計を行った。
研究の方法および結果に関する詳細情報は,国立がん研究センターがん臨床情報部のホームページ上,がん登録部会QI研究(http://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/health_s/health_s/010/index.html)に掲載された胃癌QI報告書を参照されたい。
全国の院内がん登録実施施設を募集対象として,参加施設を募り,院内がん登録(2013/1/1~12/31診断例)と対象症例に関するDPCデータ(2012/10/1~2014/12/31)を収集,専門家パネルにより策定された標準診療(Quality Indicatorとした)と注目すべき項目(実態指標と呼ぶ)に関して集計した。
全297施設(うち都道府県がん診療連携拠点病院45施設(国立がん研究センター中央病院を含む),地域がん診療連携拠点病院234施設,その他18施設)
N=44,879,年齢(SD):70.5(10.7),男性(%):31,353(69.9)
病期(UICC第7版総合Stage)*:Ⅰ期(%):28,063(62.5),Ⅱ期(%):4,101(9.1),Ⅲ期(%):4,687(10.4),Ⅳ期(%):7,538(16.8)
*病理学的Stageが存在するときは病理学的Stageを使い,非切除例などは病理学的Stageがない場合には臨床Stageで補完
初回治療の内訳:外科的手術18,297件,内視鏡治療16,791件,化学療法6,078件
手術患者数**:平均69.8件(最小値:6,最大値:505,中央値:57)
内視鏡治療患者数**:平均56.5件(最小値:0,最大値:358,中央値:46)
化学療法患者数:平均40.1件(最小値:2,最大値:212,中央値:36)
手術患者割合**:平均46.8%(最小値:20.2%,最大値:85.7%,中央値:46.9%)
内視鏡治療患者割合**:平均34.9%(最小値:0%,最大値:73.1%,中央値:34.2%)
化学療法患者割合:平均27.6%(最小値:6.9%,最大値:48.4%,中央値:27.5%)
**初診患者に対し診断日より1年以内に,手術,内視鏡治療,化学療法のあった症例数。複数回行っていても,患者ごとに1とカウント。そのため,全手術件数よりも少なめになることに注意
解析結果は表1,表2の通りである。それぞれの項目で,対象患者とそれらの患者において標準適応となる診断,治療が示され,実際の実施率が集計されている。
未実施理由として,「患者の希望」「腎,肝障害」「併存症」「合併症」「全身状態の低下」「転院」「算定漏れ」などが挙がり,その分布の詳細は,前述国立がん研究センターホームページの報告書に掲載されている。
協力施設は全参加施設の12%程度と少数であるが,検討のために,施設における未実施理由の内訳が全参加施設における未実施症例の理由の内訳とおおよそ類似するものと仮定して,妥当な未実施理由を加味した実施率を推計した。結果は表3の通りである。
本章で報告されているのは,主に日本全国のがん診療連携拠点病院を中心とした院内がん登録実施のうち診療の質の検証に賛意をいただきデータ提供いただいた施設における標準診療の実際の実施率を集計した結果である。標準診療は必ずしも全例に適応となるのではなく,個別の患者には様々な理由があって困難または適切でないことがある。つまり,標準治療を実施することがすべての患者の利益になるわけではないことを留意すべきであるものの,2013年時点での実臨床での診療実態を把握することの意義があると考えての報告であることにご留意いただきたい。
氏名 | 所属 |
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小田 一郎 | 国立がん研究センター中央病院 内視鏡科 |
小野 裕之 | 静岡県立静岡がんセンター 内視鏡科 |
小嶋 一幸 | 東京医科歯科大学医学部附属病院 胃外科 |
設楽 紘平 | 国立がん研究センター東病院 消化管内科 |
島田 英昭 | 東邦大学大学院消化器外科学講座 |
布部 創也 | がん研有明病院 消化器センター胃外科 |
深川 剛生 | 国立がん研究センター中央病院 胃外科 |
藤城 光弘 | 東京大学医学部附属病院 光学医療診療部 |
朴 成和 | 国立がん研究センター中央病院 消化管内科 |
山口 研成 | がん研有明病院 消化器化学療法科 |
QIのご検討をいただいた先生方に,この場を借りて厚く御礼申し上げます。