改訂にあたって

 今回の改訂では,基本的に第3版の形式と内容を踏襲しつつ,新しいエビデンスに基づいて記載を更新した。前版出版以降,「速報」として学会サイトで提示した治療法も,本文中に記載した。また新たに,「臨床研究としての治療法の解説」に替えて,実臨床に即したクリニカル・クエスチョンを設定し,現時点における回答と解説を加えた。

 前版出版後,重要課題に関していくつかのワーキンググループを組織して検討を進めてきた。その中から,①切除可能なM1を有する胃癌の治療方針,②食道胃接合部癌の手術法とリンパ節郭清,③胃癌手術クリニカルパスとフォローアップ,に関して一定の見解が得られたので本版に収載した。④手術リスクの評価,⑤残胃癌の治療方針,に関しては,次版での収載をめざして今後も作業を継続する。

 以下,本版での主たる改訂点を列挙する。

1 .
胃手術法の定義を更新した。
2 .
食道胃接合部の長径4 cm以下の腫瘍に対するリンパ節郭清範囲に関して暫定規準となるアルゴリズムを呈示した。
3 .
cStageⅠ胃癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術が治療選択肢となりうることを記載した。
4 .
内視鏡的治療において,未分化型成分を有する分化型癌で,3 cm以下のUL(+)のpT1aを,適応拡大治癒切除に含めることとした。また組織型mucの扱いとULの診断に関する記載を追加した。
5 .

化学療法のレジメンに推奨度を設けた。HER2陰性胃癌と陽性胃癌に関して推奨レジメンを記載し,アルゴリズムを作成した。これらは2013年12月までにpeer-reviewを経て出版された英文論文に基づき,ガイドライン作成委員会で決定した。
6 .

切除可能なM1病変を有する胃癌の治療方針と,標準レジメンの適用が難しい化学療法に関して,7つのクリニカル・クエスチョンを設定し,回答と解説を加えた。
7 .
胃癌術後クリニカルパスとフォローアップに関して,モデルを記載した。

2014年5月

胃癌治療ガイドライン検討委員会 第4版

作成委員会
委員長 佐野  武(外科)    
副委員長 小野 裕之(内科)    
委員 荒井 邦佳(外科) 落合 淳志(病理) 小泉和三郎(内科)
小嶋 一幸(外科) 小寺 泰弘(外科) 笹子三津留(外科)
設楽 紘平(内科) 島田 安博(内科) 瀬戸 泰之(外科)
円谷  彰(外科) 梨本  篤(外科) 二宮 基樹(外科)
馬場 英司(内科) 馬場 秀夫(外科) 深川 剛生(外科)
藤城 光弘(内科) 朴  成和(内科) 室   圭(内科)
矢作 直久(内科)    
顧問 中島 聰總(外科)    
評価委員会
委員長 片井  均(外科)    
委員 糸井 啓純(外科) 大津  敦(内科) 加藤 元嗣(内科)
佐藤 太郎(内科) 下田 忠和(病理) 古河  洋(外科)
前原 喜彦(外科)    

第 3 版の序

 今回の改訂では,胃癌取扱い規約の改訂に合わせ,ガイドラインの役割を明確にすべく大幅な変更を行った。最大のポイントは,これまで胃癌取扱い規約に含まれていた治療に関する記載を全面的に,しかも形式を大きく変更してガイドラインに移したことである。

 第13版までの胃癌取扱い規約では,原発巣の胃内占居部位ごとにリンパ節が群分類され,この解剖学的群分類が,リンパ節転移程度(N1-N3,M1)とステージの決定に用いられ,かつ郭清範囲(D1-D3)を規定していた。これは,長年にわたる膨大なデータの蓄積と詳細な解析に基づく合理的な方法であったが,その複雑さゆえに一般外科医や海外の専門医には十分に理解され難く,また原発巣の占居部位や転移リンパ節部位の判断が客観性を欠く場合があることも指摘されていた。

 胃癌取扱い規約第14版では,この解剖学的N分類を廃止し,TNM分類と連動した転移個数によるN分類を採用した。これは,転移個数による分類が解剖学的分類よりも予後をよく反映するという国内外の研究結果が増えたことと,国際的普遍性・客観性を重視したことによる。これにより,従来の「第1群リンパ節」,「第2群リンパ節」という呼称も存在しなくなった。この変更に伴い,リンパ節郭清範囲に関してより簡明な術式別Dを本ガイドラインで定義した。

 この大きな方針転換は規約・ガイドライン委員会でも議論になったが,わが国で蓄積されたノウハウを国際的にもより広く普及させ,胃癌治療成績の向上を図るために決断に至ったものである。新方式にも欠点はあり,特に運用開始当初は混乱が予想されるが,長期的視野に立ってご理解いただきたい。なお胃癌取扱い規約第14版はすでに2010年3月に出版されているが,本ガイドライン第3版と併用することで初めて両者は十分に機能することになるので,症例の取扱いと記録に当たっては本ガイドライン発行の後に新システムへ切り替えが行われることを期待する。

 また特に薬物治療に関して,新しいエビデンスや保険承認に基づき推奨治療が更新された場合は学会ホームページ(http://www.jgca.jp/)上に随時公開する予定であるので最新版を確認いただきたい。

 以下,今回の主たる改訂点を列記する。

1 .
従来の「進行度別治療法の適応」に加え,臨床診断に基づく「治療アルゴリズム」を提示した。
2 .
「臨床研究としての治療法」に関しては,標準治療(日常診療としての治療法)との混同を避けるため従来の適応一覧表を廃し,資料編に短い解説を加えるに留めた。
3 .
胃の切除範囲と断端距離に言及し,切除術式選択の原則を示した。
4 .
リンパ節郭清範囲(D)を胃切除術式別に定義し,その適応を明示した。
5 .
内視鏡的切除に関して,分化型癌 と未分化型癌を定義し,組織学的優位性とULの評価を明示した。内視鏡的切除の根治性評価も明示した。
6 .

化学療法に関しては,わが国のRCTの成果を中心に,論文発表されて一定の評価を得たエビデンスに基づいて推奨治療を提示した。期待された優越性が証明されなかったレジメンに関しては「推奨できない」ことを明示した。
7 .
術後補助化学療法を初めて推奨した。Stage分類の変更に伴う対象症例の変更も明示した。
8 .
胃癌取扱い規約に掲載した新しい生検Group分類に関しては,その重大性に鑑み,ガイドラインにも掲載した。

 なお,胃癌手術術式の正確な定義,術後クリニカル・パスおよび術後フォローアップに関しては,次版に掲載すべくワーキンググループを立ち上げて検討を開始している。

2010年10月

胃癌治療ガイドライン検討委員会 第3版

作成委員会
委員長 佐野  武(外科)    
副委員長 島田 安博(内科)    
委員 荒井 邦佳(外科) 落合 淳志(病理) 小野 裕之(内科)
小山 恒男(内科) 上西 紀夫(外科) 小嶋 一幸(外科)
佐々木常雄(内科) 笹子三津留(外科) 佐藤  温(内科)
下間 正隆(外科) 瀬戸 泰之(外科) 瀧内比呂也(内科)
谷川 允彦(外科) 長南 明道(内科) 円谷  彰(外科)
梨本  篤(外科) 二宮 基樹(外科) 馬場 秀夫(外科)
室   圭(内科) 矢作 直久(内科) 山口 研成(内科)
山口 俊晴(外科)    
顧問 中島 聰總(外科)    
(イラスト  篠原  尚)
評価委員会
委員長 古河  洋(外科)    
委員 糸井 啓純(外科) 大津  敦(内科) 小泉和三郎(内科)
下田 忠和(病理) 前原 喜彦(外科) 加藤 元嗣(内科)

第 2 版の序

 日本胃癌学会は2001年3月本ガイドラインの「医師用」を,同12月「一般用」を作成したが,ひとつの癌について,そのすべての治療を示したのは,国内では初めてのことであった。その後,本ガイドラインの内容について,本学会のみならず,他の学会においてもシンポジウム等で取り上げられ,多くの議論がなされた。また,2002年末には本ガイドラインについて学会会員施設を対象としたアンケート調査も行い,その検証を行った。多くの意見やこれらの検証を基に,そしてその後の新しい文献(2000年10月から2003年6月まで)を加えてここに改訂版を作成した。

 今回の改訂での特徴は,初版以後の新しい文献を組み入れて作成したこと,新たに腹腔鏡下手術,周術期治療等について示したこと,化学療法ではエビデンスレベルを示し,実例として現在新しく第Ⅲ相試験で行われている主な治療プロトコールを示したことなどがあげられよう。日本における文献は比較試験等が少なく,外国のエビデンスレベルに当てはめると低いものが多い。しかし,日常診療としてコンセンサスが得られているものについて,これを評価した場合は勧告の強さが高くなり,ここに乖離が生じる。今後,これらの問題点を整理し,資料の取捨選択に関する基準を定め,化学療法以外の分野においてもエビデンスレベルを記載できるようにしていきたいと考えている。

 本ガイドラインは,現時点でもっとも妥当と思われる治療法をガイドラインとして示すが,もちろん完全なものではなく,またマニュアルでもない。色々な問題を抱えながらも,本ガイドラインに対する検証を基にして,新しいエビデンスを加えつつ,定期的に改訂版を示していくことは本ガイドラインの目的へより近づくために有意義なことであると考えている。会員諸氏の日常診療においてより役立つことを願い,今後も委員会あてに多くのご意見をいただきたい。なお,評価委員会における評価,患者代表や有識者による外部評価を受け,さらに2004年3月の第76回日本胃癌学会総会におけるコンセンサスミーティングの意見も取り入れ修正を行った。

 本ガイドラインは日本胃癌学会費用のみにて作成された。

2004年4月

胃癌治療ガイドライン検討委員会 第 2 版

作成委員会
委員長 佐々木常雄(内科)    
副委員長 山口 俊晴(外科)    
委員 荒井 邦佳(外科) 大谷 吉秀(外科) 上西 紀夫(外科)
笹子三津留(外科) 佐藤  温(内科) 島田 安博(内科)
下間 正隆(外科) 谷川 允彦(外科) 長南 明道(内科)
梨本  篤(外科)    
顧問 中島 聰總(外科)    
評価委員会
委員長 吉野 肇一(外科)    
副委員長 坂田  優(内科)    
委員 井田 和徳(内科) 大津  敦(内科) 小泉 和三郎(内科)
下田 忠和(病理) 古川 俊治(外科,弁護士) 前原 喜彦(外科)

初版の序

 広範切除+D2郭清は長い間,胃癌の標準的治療として広く定着していた。しかし近年は早期胃癌症例が増加する一方で,依然として晩期胃癌症例や再発症例が少なくなく,従来の標準的治療では対応しきれない症例が増加してきた。こうした治療対象の多様化に対応して様々な治療方法が開発され,試行されるようになった。すなわち,早期胃癌症例に対しては内視鏡的粘膜切除(EMR)や腹腔鏡下手術,機能温存術式を含む縮小手術,進行癌に対しては超拡大手術,術前化学療法(Neoadjuvant chemotherapy)などが従来の標準的治療に加わり,癌の進行程度に応じた治療法が施行されるようになった。こうした治療法の多様化により一方では治療法の選択肢が増したが,他方では施設により,あるいは同一施設でも医師個人により治療法の適応が異なる場合も生じてきた。第71回日本胃癌学会総会(1999.6)の開催にあたり,会員施設に対し現行の胃癌治療についてのアンケート調査を行ったところ,きわめて多様な胃癌治療の実態が明らかになった。学会として治療法自体に制約を加えるべきではないが,治療担当者が参照すべき治療ガイドラインの作成は是非必要であろうと思われる。ちなみに欧米では1980年代の後半から治療の標準化を目的として治療ガイドラインに関する議論が盛んになり,アメリカではPDQ(Physician’s Data Query)が医療関係者のみならず,患者にも自由に閲覧できるように公開されている。こうした治療ガイドラインの作成と公開を望む声はわが国でも高まりつつあり,医師,患者の相互理解にも役立つものと思われる。日本胃癌学会胃癌治療ガイドライン検討委員会は検討を重ねた結果,現時点でもっとも妥当と思われる治療ガイドラインを作成し,会員諸氏の日常診療上の参考に供したいと考える。

2001年3月

胃癌治療ガイドライン検討委員会

作成委員会
委員長 中島 聰總    
副委員長 栗原  稔 磨伊 正義  
委員 大上 正裕 太田惠一朗 大山 繁和
上西 紀夫 北村 正次 佐々木常雄
笹子三津留 佐藤  温 平田 公一
山口 俊晴    
評価委員会
委員長 吉野 肇一    
委員 井田 和徳 坂田  優 下田 忠和
島田 安博 古川 俊治 前原 喜彦