Ⅱ章 治療法
E支持・緩和医療(CQ26~CQ27)
WHOは,「緩和ケア(Palliative care)とは,生命を脅かす疾患に関連する問題に直面している患者とその家族に対して,痛みとその他の身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな問題を早期に同定し,適切に評価し対応することを通して,苦痛を予防し緩和することによって,患者と家族のQOLを改善するアプローチである」(WHO,2002年)73)と定義している。一方,ESMO(欧州臨床腫瘍学会)はSupportive care を「がんのすべての過程における,最適な快適さ,機能的,社会的に患者・家族を支援する医療」,Palliative careを「治癒が望めなくなった段階でのサポート」と定義している74)。本邦では,がん対策推進基本計画において,支持療法を「がんそのものによる症状やがん治療に伴う副作用・合併症・後遺症による症状を軽減させるための予防,治療およびケアのこと」と定義しており,「Palliative care,Supportive care」をそのままそれぞれ「緩和ケア,支持療法」と翻訳外挿してしまうには無理がある。また,両者にはオーバーラップしている部分も大きく,包括して「支持・緩和医療」と章立てすることが相応と考える。本ガイドラインでは,今回あらたに支持・緩和医療として,胃癌で特徴的に行われている,消化管ステント留置(CQ26)とCART(CQ27)について取り上げた。もちろん,胃癌患者やその家族も他の「がん」と同様に身体的苦痛の他にも精神的,社会的苦痛およびスピリチュアルペインを種々抱えている。これらすべてのがん診療に共通した苦痛に対する緩和・支持医療は,がん診療の基本的な部分を担っている。また,苦痛の管理を中心に支持・緩和医療分野でも,多くの臨床研究が行われている。本ガイドラインの利用対象者は,取り上げた臨床疑問以外にも,苦痛に対する援助技術,コミュニケーション技術や症状管理の技術等について学ぶ必要がある。