Ⅱ章 治療法


術後補助化学療法

 術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)は,治癒切除後の微小遺残腫瘍による再発予防を目的として行われる化学療法である。古くから多くの臨床試験が行われながら確実な延命効果は示されなかったが,2006年,ACTS-GC試験によりS-1の有効性が示され,これがわが国における標準治療となった155,160)(推奨度1)。その後,S-1と他剤の併用療法を検討した複数の探索的試験(術後投与の安全性確認試験)が実施され162),現在国内外で臨床的有用性が複数の第Ⅲ相試験で検討されている。一方,2012年には韓国で実施されたCLASSIC試験165)においてカペシタビンとオキサリプラチン併用療法の有用性(無再発生存期間の延長)が示されたが,2014年5月現在,オキサリプラチンの胃癌適応(切除不能進行,および術後補助療法)は本邦未承認である。オキサリプラチンを含む他の薬剤とS-1との併用療法と,国内標準治療のS-1単独の臨床的有用性に関しては,大規模な比較試験において検討されることが必要である。

適 応

 ACTS-GC試験での対象症例は,胃癌取扱い規約第13版による根治A,B手術(D2以上のリンパ節郭清)を受けたpStageⅡ,ⅢA,ⅢB症例(ただしT1症例を除く)であり,本ガイドラインでもこの対象に対するS-1補助化学療法を推奨する。
 ただし胃癌取扱い規約第14版では,TおよびNの分類法とStageが大幅に変更になっており,13版からの単純な読み換えはできない。旧分類のStageⅡ/Ⅲ症例が新分類ではどのように分類されるかを検討したところ,SS N0症例(旧規約でStageⅠB,新規約でStageⅡA)とT1症例を除けば,新旧の「StageⅡ/Ⅲ集団」はほぼ同一となる(個々の症例のStageが新旧で変わらないのではなく,StageⅡ/Ⅲという枠の中に収まる)ことが判明した。したがって,本ガイドラインでもT3(SS)N0とT1を除くStageⅡ/Ⅲを補助化学療法の対象とする。

S-1補助化学療法の実際

 化学療法実施上の一般的基準や注意点は,ⅡD-3に準じる。手術からの回復を待って,術後6週間以内にS-1投与を開始する。標準量80 mg/m2/日の4週間投与2週間休薬を1コースとし,術後1年間継続する。非手術例に比べ術後投与では血液毒性・非血液毒性とも出現しやすいので,臨床・血液所見に応じて薬剤投与レベルを下げるか,投与スケジュールを2週間投与1週間休薬に変更するなどの対応を適宜行う。