Ⅲ章 資料


クリニカル・クエスチョン(CQ)

CQ 1
大動脈周囲リンパ節に転移があると診断された胃癌は胃切除術の適応外か?

回答
少数のリンパ節腫大がNo. 16a2,b1に限局して認められ,他の非治癒因子を有さない場合,拡大郭清を伴う外科的切除を含む集学的治療が提案され得る。

 大動脈周囲リンパ節に転移があればM1となり,本ガイドラインの「日常診療で推奨される治療法選択のアルゴリズム」においては根治を目指した手術の適応外とされている。
 わが国ではかつて大動脈周囲リンパ節郭清を含む拡大郭清が臨床研究として行われていたが,画像診断上大動脈周囲リンパ節転移を伴わない症例に拡大郭清を行う意義は,第Ⅲ相試験によって否定された[1]。しかし,各施設で拡大郭清を行った症例の後向きの解析は数多くおこなわれており,同部に転移を有する症例が一定の頻度でみられること,転移例が10~20%の頻度で治癒に至ることが知られている。近年海外からも同様の報告がみられており[2],画像上No. 16a2,b1に限局した大動脈周囲リンパ節に腫大を認める場合に同部の郭清を含む胃切除術を行う意義を完全に否定することはできない。
 集学的治療の前向き試験としては,画像診断上大動脈周囲リンパ節転移を有する症例を含む高度リンパ節転移例を対象に,審査腹腔鏡で腹膜転移を除外した上でS-1+シスプラチン療法による2コースの術前補助化学療法と拡大郭清を伴う胃切除術を行う戦略が第Ⅱ相試験で検証された。この試験の対象症例全体では53%の5年生存率が得られており[3],拡大郭清に習熟した施設においては有力な選択肢となり得る。一方,非治癒因子が大動脈周囲リンパ節転移のみである場合には化学療法で10%程度の5年生存率が得られるとの報告もある[4,5]。しかし,これらの報告には奏効後に胃切除術を行った症例も含まれており,集学的治療の成果が反映されているとも考えられる。

[1] Sasako M, Sano T, Yamamoto S, et al:D2 lymphadenectomy alone or with para-aortic nodal dissection for gastric cancer. N Engl J Med 2008;31:453-62.
[2] Roviello F, Pedrazzani C, Marrelli D, et al:Super-extended(D3)lymphadenectomy in advanced gastric cancer. Eur J Surg Oncol 2010;36:439-46.
[3] Tsuburaya A, Mizusawa J, Tanaka Y, et al:Neoadjuvant chemotherapy with S-1 and cisplatin followed by D2 gastrectomy with para-aortic lymph node dissection for gastric cancer with extensive lymph node metastasis. Br J Surg 2014;101:653-60.
[4] Yoshida M, Ohtsu A, Boku N, et al:Long-term survival and prognostic factors in patients with metastatic gastric cancers treated with chemotherapy in the Japan Clinical Oncology Group(JCOG)study. Jpn J Clin Oncol 2004;34:654-9.
[5] Park IH, Kim SY, Kim YW, et al:Clinical characteristics and treatment outcomes of gastric cancer patients with isolated para-aortic lymph node involvement. Cancer Chemother Pharmacol 2011;67:127-36.

CQ 2
肝転移があると診断された胃癌に対する治療方針は何か?

回答
転移個数が少数であり,他の非治癒因子を有さない場合,外科的切除を含む集学的治療が提案され得る。

 肝転移があればM1となり,本ガイドラインの「日常診療で推奨される治療法選択のアルゴリズム」においては根治を目指した手術の適応外とされている。

 肝転移については,両葉に多発することが多いこと,肝外転移を有することが多いことなどから,胃癌では切除の対象となりにくい。これまで肝転移症例における肝切除の意義に関する臨床試験は行われておらず,単施設で長期間にわたって集積された比較的少数の肝切除例についての後方視的な報告がみられるのみである[1,2,3]。とはいえ,これらの報告では10~40%程度の5年生存率が報告されており,慎重に適応を選べば切除によって長期生存が得られる可能性がある。また,多くの報告で転移個数が少ないこと,あるいは単発であることが予後因子としてあげられていた[4]。近年の画像診断の進歩を勘案すると,必ずしも単発例に限らず,個数が比較的少数であれば,他に非治癒因子がないことを条件に肝切除を考慮してもよいと思われる。また,異時性,同時性のいずれが有利であるかについては見解の一致がみられないことから,再発例でも同様の条件で手術適応となり得る。しかし切除後に再発する例が多いことから,過去に初回手術時の術後補助化学療法などの化学療法を受けていない場合には,周術期に化学療法を考慮することが望ましい。ただし具体的なレジメンについては特定できない。

[1] Sakamoto Y, Sano T, Shimada K, et al:Favorable indications for hepatectomy in patients with liver metastasis from gastric cancer. J Surg Oncol 2007:95;534-9.
[2] Takemura N, Saiura A, Koga R, et al:Long-term outcomes after surgical resection for gastric cancer liver metastasis:and analysis of 64 macroscopically complete resections. Langenbecks Arch Surg 2012;397:951-7.
[3] Cheon SH, Rha SY, Jeung HC, et al:Survival benefit of combined curative resection of the stomach(D2 dissection)and liver in gastric cancer patients with liver metastases. Ann Oncol 2008;19:1146-53.
[4] Kodera Y, Fujitani K, Fukushima N, et al:Surgical resection of hepatic metastasis from gastric cancer:a review and new recommendation in the Japanese gastric cancer treatment guidelines. Gastric Cancer 2014;17:206-12.

CQ 3
腹腔内洗浄細胞診陽性(CY1)胃癌の治療方針は何か? 原発巣が切除されたCY1症例に対して推奨される化学療法は何か?

回答
他の非治癒因子を有さない場合,定型手術を含む集学的治療が提案され得る。既に原発巣が切除された場合はS-1単独療法が推奨される。

 本邦では術中に腹腔内洗浄細胞診が行われることが一般的であり,これが陽性であればM1となり,本ガイドラインの「日常診療で推奨される治療法選択のアルゴリズム」においては根治を目指した手術の適応外とされている。しかし,CY1の他に非治癒因子がない場合には定型手術がなされることが少なくない。過去の治療成績をみると,生存期間中央値が12カ月前後,5年生存率が7.8%と不良であったが[1],これには手術のみの症例が含まれていた。
 CCOG0301試験では,切除可能な微小腹膜転移陽性例を含むCY1の47例に対し,定型手術後に通常量のS-1を再発まで投与したところ,無再発生存期間および全生存期間の中央値はそれぞれ376日,705日であり,5年無再発生存率および全生存率は21%,26%であった[2]。また,単独施設の後方視的検討ではあるが,原発巣切除後S-1による化学療法が施行されたCY1の120症例の5年生存率は26.6%であったとの報告があり[3],再現性が示されている。これらの成績はS-1登場以前の報告[1]と比べて良好であり,高頻度で腹膜転移をきたすスキルス胃癌の治癒切除後の治療成績にも匹敵する[4]。また,CY1症例は大型3型・4型胃癌を対象とするS-1+シスプラチン療法による術前補助化学療法を検証する第Ⅲ相試験(JCOG0501)で適格となっており,この場合の標準治療群は定型手術+術後S-1療法である。
 以上より,CY1症例に対して周術期化学療法とともに定型手術を行う意義はあると推察される。また,既に原発巣が切除された症例では,術後S-1単独療法が推奨される。一方,化学療法を先行し,腹腔内洗浄細胞診が陰性化した場合に手術を行えば予後に期待できるとの報告もある[5,6]。しかし,切除のタイミング,至適化学療法レジメンやその実施期間についての第Ⅲ相試験に基づくエビデンスは存在しないので,集学的治療の詳細については今後の課題となる。

[1] Bando E, Yonemura Y, Takeshita Y, et al:Intraoperative lavage for cytological examination in 1,297 patients with gastric carcinoma. Am J Surg 1999;178:256-62.
[2] Kodera Y, Ito S, Mochizuki Y, et al:Long-term follow up of patients who were positive for peritoneal lavage cytology:final report from the CCOG0301 study. Gastric Cancer 2012;15:335-7.
[3] Bando E, Makuuchi R, Miki Y, et al:Clinical significance of intraoperative peritoneal cytology in Gastric Carcinoma-Analysis of 3142 patients-. 10th International Gastric Cancer Congress 2013;Abstract, P27-5
[4] Kinoshita T, Sasako M, Sano T, et al:Phase Ⅱ trial of S-1 for neoadjuvant chemotherapy against scirrhous gastric cancer(JCOG 0002). Gastric Cancer 2009;12:37-42.
[5] Okabe H, Ueda S, Obama K, et al:Induction chemotherapy with S-1 plus cisplatin followed by surgery for treatment of gastric cancer with peritoneal dissemination. Ann Surg Oncol 2009;16:3227-36.
[6] Mezhir JJ, Shah MA, Jacks LM, et al:Positive peritoneal cytology in patients with gastric cancer:natural history and outcome of 291 patients. Ann Surg Oncol 2010;17:3173-80.

CQ 4
術後補助化学療法施行中または終了後早期再発例(6カ月以内)に対する推奨される化学療法のレジメンは何か?

回答
推奨されるレジメンは決定していないが,6カ月以内再発例では,二次治療として,S-1単独以外の治療法が選択されていることが多い。

 ACTS-GC試験により,S-1による術後補助化学療法が標準治療として確立されたが,それに伴い術後補助化学療法後の再発例に対する標準治療の確立は重要な課題である。
 多施設の後方視的検討で,S-1による術後補助化学療法終了後6カ月以内再発例に対するS-1+シスプラチン併用療法の奏効率(5%)は,6カ月以降の再発例(37.5%)に比べて低かったとの報告があり[1],術後補助化学療法実施中および終了後早期の再発例では,術後補助療法に用いた薬剤(レジメン)に抵抗性である可能性が示唆される。一方,ACTS-GC試験における後方視的検討では,再発時期にかかわらず,後治療としてS-1を含む化学療法を行った群の方が,S-1を含まない化学療法を行った群よりも再発後の生存期間が長かったと報告されているが[2],経口摂取可能か否かなどの患者背景のバイアスが存在する可能性があり,解釈には注意を要する。
 大腸癌では,5-FU単独が術後補助化学療法の標準治療であった時代には,最終投与後6カ月以内の早期再発か6カ月以降の再発かによって,再発後の治療戦略が異なり,6カ月以降の再発例は,化学療法歴のない切除不能例と同様に,一次治療として5-FUおよび新薬を含む標準治療が確立されている。一方,6カ月以内再発例は二次治療の対象として,標準治療が確立されてきた。同様に,最近の胃癌における臨床試験でも,術後補助化学療法終了6カ月以降の再発例は初回治療例として取り扱われ,術後補助療法後6カ月以内の再発例は二次治療例として取り扱われることが多い。
 このように,術後補助化学療法中および早期(6カ月以内)再発例に対して,二次治療としてS-1単独以外の治療法が選択されていることが多い。しかし,現時点では標準治療は確立されていない。

[1] Shitara K, Morita S, Fujitani K, et al:Combination chemotherapy with S-1 plus cisplatin for gastric cancer that recurs after adjuvant chemotherapy with S-1:multi-institutional retrospective analysis. Gastric Cancer 2012;15:245-51.
[2] 伊藤誠二,笹子三津留:S-1術後補助化学療法後の転移再発例における生存期間;ACTS-GCにおける後向き探索解析(ACTS-GCグループ).第83回日本胃癌学会総会,東京,2011.

CQ 5
高度腹膜転移による経口摂取不能または大量腹水を伴う症例に対して推奨される治療は何か?

回答
全身状態を評価し化学療法の適応を慎重に決定すべきであり,毒性の少ない5-FUやパクリタキセルが選択可能である。

 高度腹膜転移のために経口摂取不能または大量腹水を認める場合には,S-1+シスプラチン療法を施行することは困難であり,これらの症例は通常の臨床試験の対象外であるため,標準治療は確立していない。また,全身状態不良であることも多く,best supportive careも考慮し,化学療法の適応を慎重に決定すべきである。
 CTや注腸などの画像にて診断された腹膜転移を有する症例を対象としたJCOG0106試験では,5-FU持続静注療法(5-FUci)とメトトレキサート/5-FUの時間差療法が比較された結果,生存期間に有意な差はなく,5-FUciの毒性が少ないことが示された。さらに,経口摂取不可能なサブセットにおいて,5-FUciにより41%(7/27)で経口摂取の改善が得られた[1]。この結果より,高度腹膜転移のために内服不能の場合には,最も毒性の少ない5-FUciが選択肢として第一に挙げられる。しかし,5-FUciの大量腹水症例に対する効果は不明である。一方,本邦で行われた第Ⅲ相試験(ISO-5FU10)[2]で5-FU/leucovorin(LV)療法がS-1単独に対して非劣性を示しており,全身状態が良好であれば,外来でも施行可能な5-FU/LV療法も選択可能と考えられる。
 また,腹水症例を対象としたパクリタキセル毎週投与法の第Ⅱ相試験では,CT上定点測定することにより腹水量を評価し,39%(25/64)に改善が得られた[3]。腹膜転移例に対する二次治療におけるランダム化第Ⅱ相試験(JCOG0407)では,best available 5-FUと比較して,パクリタキセル毎週投与法での無増悪生存期間は長かったが,全生存期間には大きな差はなく,毒性はパクリタキセル毎週投与法の方が軽かった[4]。これらの結果より,二次治療を含めてパクリタキセル毎週投与法は高度腹膜転移症例に対して選択可能と考えられる。さらには,5-FU/LVにパクリタキセルを加えたFLTAX療法の第Ⅱ相試験では,腹水に対する効果が44%に得られと報告されている[5]。ただし,併用療法は単剤療法と比較した試験による評価が待たれる。

[1] Shirao K, Boku N, Yamada Y, et al:Randomized Phase Ⅲ Study of 5-fluorouracil Continuous Infusion vs. Sequential Methotrexate and 5-Fluorouracil Therapy in Far Advanced Gastric Cancer with Peritoneal Metastasis(JCOG0106). Jpn J Clin Oncol 2013;43:972-80.
[2] Sawaki A, Yamaguchi K, Nabeya Y, et al:5-FU/l-LV(RPMI)versus S-1 as first-line therapy in patients with advanced gastric cancer:a randomized phase Ⅲ non-inferiority trial.(ISO-5FU10 Study Group trial). Eur J Cancer 2009;7(Supplement):364.
[3] Imamoto H, Oba K, Sakamoto J, et al:Assessing clinical benefit response in the treatment of gastric malignant ascites with non-measurable lesions:a multicenter phase Ⅱ trial of paclitaxel for malignant ascites secondary to advanced/recurrent gastric cancer. Gastric Cancer 2011;14:81-90.
[4] Takiuchi H, Fukuda H, Boku N, et al:Randomized phase Ⅱ study of best-available 5-fluorouracil(5-FU)versus weekly paclitaxel in gastric cancer(GC)with peritoneal metastasis(PM)refractory to 5-FU-containing regimens(JCOG0407). J Clin Oncol 2010;28:15s(suppl;abstr 4052).
[5] Iwasa S, Goto M, Yasui H, et al:Multicenter feasibility study of combination therapy with fluorouracil, leucovorin and paclitaxel(FLTAX)for peritoneal disseminated gastric cancer with massive ascites or inadequate oral intake. Jpn J Clin Oncol 2012;42:787-93.

CQ 6
高齢者の切除不能・再発胃癌に対する推奨される化学療法は何か?

回答
全身状態が良好であればS-1+シスプラチン療法が推奨されるが,有害事象に十分注意する必要がある。状況によっては,S-1単剤療法も考慮する。

 現在本邦では,切除不能再発胃癌に対する一次化学療法の標準治療はS-1+シスプラチン併用療法と認識されているが,このエビデンスを確立したSPIRITS試験の適格条件は74歳以下であり,70歳以上の症例は17%(50/298)しか含まれていなかった。サブセット解析ではあるが,年齢別のS-1単独に対するS-1+シスプラチン併用療法のハザード比は,60歳未満(111例)では0.75(95%信頼区間:0.61-0.92)であったのに対して,60歳から69歳では0.98(0.82-1.17),70歳から74歳では0.95(0.71-1.27)と,高齢者におけるシスプラチンの上乗せ効果は必ずしも明らかではない[1]。さらに,70歳以上では,比較的全身状態良好な高齢者に対してS-1+シスプラチン併用療法が行われ,その他の高齢者に対してS-1単独療法が選択される傾向があるにもかかわらず,S-1療法とS-1+シスプラチン療法での生存期間に差がなかったとの報告もある[2]。一方,75歳以上の高齢者に対するS-1単独療法による良好な成績も報告されている[3]
 このように,高齢者に対して非高齢者と同じようにS-1+シスプラチン併用療法を行うことに対する問題点が指摘されている。しかし,高齢者の定義については,暦年齢のみでなく臓器機能や併存症・既往症なども加味すべきであるが,確立された評価方法はない。
 今後,高齢者の切除不能・再発胃癌に対する臨床試験が必要であると考えられるが,現時点では,S-1+シスプラチン併用療法を用いるか否かの決定は,担当医の判断によらざるを得ない。全身状態や腎機能,心機能などに注意し,可能であればS-1+シスプラチン療法が推奨されるが,状況によっては,S-1単剤療法も考慮する。治療開始後にも,全身状態や臓器機能の評価を継続し,重篤な副作用だけでなく,重篤でなくても経口摂取低下や,口内炎,下痢などが高齢者の全身状態に与える影響に十分に注意すべきである。

[1] Koizumi W, Narahara H, Hara T, et al:S-1 plus cisplatin versus S-1 alone for first-line treatment of advanced gastric cancer(SPIRITS trial):a phase Ⅲ trial. Lancet Oncol 2008;9:215-21.
[2] Tsushima T, Hironaka S, Boku N, et al:Comparison of safety and efficacy of S-1 monotherapy and S-1 plus cisplatin therapy in elderly patients with advanced gastric cancer. Int J Clin Oncol 2013;18:10-6.
[3] Koizumi W, Akiya T, Sato A, et al:Phase Ⅱ study of S-1 as first-line treatment for elderly patients over 75 years of age with advanced gastric cancer:the Tokyo Cooperative Oncology Group study. Cancer Chemother Pharmacol 2010;65:1093-9.

CQ 7
HER2陽性胃癌の二次化学療法として推奨される化学療法レジメンは何か?

回答

推奨されるレジメンはタキサン系抗癌剤もしくはイリノテカンであるが,トラスツズマブ未治療例における二次化学療法としては,パクリタキセル(週1回投与法)とトラスツズマブの併用療法が有効な可能性がある。

 HER2陽性胃癌において,一次化学療法では,ToGA試験の結果[1]から,トラスツズマブを含む化学療法を行うことが推奨されている。一方,トラスツズマブ既治療例のHER2陽性胃癌に特化した二次化学療法に関しては,現時点で十分なエビデンスが存在せず,推奨されるレジメンは胃癌に対する通常の二次化学療法と同様にタキサン系抗癌剤もしくはイリノテカンである。
 一方で,トラスツズマブを含まない化学療法歴のあるHER2陽性胃癌に対するパクリタキセル(週1回投与法)+トラスツズマブ併用療法の国内第Ⅱ相試験(JFMC45-1102試験)の結果が報告[2]され,有効性解析症例46例の奏効割合37.0%(95%CI:23.2-52.5),病勢コントロール割合82.6%(95%CI:68.6-92.2)と良好な成績であった。安全性に関して,10%以上の左室駆出能低下を認めたのは1例のみであった。本試験では,前治療歴として,術後補助化学療法のみの症例が12例(26%)含まれていたり,2レジメン治療歴を有する症例(三次化学療法例)が5例(11%)含まれていたりするなど,一次化学療法としてフッ化ピリミジン+プラチナ系薬剤の併用療法を施行した典型的な二次化学療法症例集団ではないこと,また,左室駆出能以外の安全性については解析中であり現時点で未公表であることなど,結果を解釈する上で問題点は少なくない。
 また,一次化学療法に続いて二次化学療法においても継続してトラスツズマブ併用化学療法を行う意義(trastuzumab beyond progression)に関しては,その有効性と安全性を示すエビデンスは現時点で報告されていない。

[1] Bang YJ, Van Cutsem E, Feyerislova A, et al:Trastuzumab in combination with chemotherapy versus chemotherapy alone for treatment of HER2-positive advanced gastric or gastro-oesophageal junction cancer(ToGA):a phase 3, open-label, randomised controlled trial. Lancet 2010;376:687-97.
[2] Iwasa S, Nishikawa K, Miki A, et al:Multicenter, phase Ⅱ study of trastuzumab and paclitaxel to treat HER2-positive, metastatic gastric cancer patients naive to trastuzumab(JFMC45-1102). J Clin Oncol 2013(suppl;abstr 4096).