Ⅰ章 本ガイドラインについて
本ガイドラインは胃癌診療に携わる医師を対象とし,1)胃癌の治療法についての適正な適応を示すこと,2)胃癌治療における施設間差を少なくすること,3)治療の安全性と治療成績の向上を図ること,4)無駄な治療を廃して,人的・経済的負担を軽減すること,5)医療者と患者の相互理解に役立てることを目的とする。本ガイドラインは治療の適応についての目安を提供するものであり,ガイドラインに記載した適応と異なる治療法を施行することを規制するものではない。
医師用のガイドラインとは別に,一般人を対象としたガイドラインの平易な解説を用意し,胃癌治療ガイドラインが広く理解されることを期待している。
本ガイドラインは,胃癌に対する手術,内視鏡的切除,化学療法のそれぞれに関して,治療法の定義,推奨される治療法と適応を示す。推奨される治療法の選択のために,臨床診断に沿ったアルゴリズムと Stage 別の治療法一覧を作成する。資料として,臨床研究としての治療法を列挙し,解説を加える。
ガイドラインが日常臨床として推奨する治療法は evidence-based であることを原則とするが,外科手術および内視鏡的治療に関する記述の多くは,胃癌研究会(1962~1998年)時代からのわが国独自の膨大なデータ蓄積により形成されたコンセンサスに基づいている。これを基本とする臨床研究により,科学的なエビデンスが形成されることを期待する。化学療法の分野では近年わが国からも質の高いランダム化比較試験によるエビデンスが次々と生まれているが,査読を経て論文化され一定の評価とコンセンサスが確立したものを取り入れることを原則とする。国際共同試験で有効性が証明された治療法でも,国内で承認されていないものは推奨しない。
日常臨床として推奨するには至らないものの有望な治療法と期待されるものは,「臨床研究としての治療法」として列挙し,解説を加える。適切にデザインされた前向きのデータ集積や比較臨床試験を通してコンセンサスが得られ,標準治療として掲載されるようになることを期待する。
胃癌治療ガイドライン検討委員会の中に,作成グループと評価グループを独立して設置する。作成グループは,委員会での討議に加え学会のコンセンサスミーティングや学会外の意見も取り入れて原案を作成し,これを評価グループに提示する。この評価を得た後に学会の承認を得てガイドラインを発効する。改訂の手順も同様とする。
作成委員会は,ガイドラインの記述に値すると考えられる新しいエビデンスが発表された場合や,ガイドラインの実臨床での利用に問題が生じたと思われる場合に委員会を開催して討議し,改訂準備を進めると同時に,速報のオンライン発表を行う。
本ガイドラインが胃癌治療の現場で広く利用されるよう小冊子として出版し,また学会のホームページなどでも公開する。
胃癌治療法の説明と同意に当たり,医師は患者とともに本ガイドラインを参照し,各治療法の位置づけと内容を平明に説明して患者の理解を得るよう努めることが望ましい。ガイドラインで推奨する治療法と異なる治療を行おうとする場合は,なぜその治療法を選択するのかを患者に説明し,十分な理解を確認する必要がある。「臨床研究としての治療法」は,「ガイドラインに掲載されている治療法」ではなく,「ガイドラインで標準治療としては推奨されていないが,有望とされる研究的治療」として説明する。