Ⅱ章 治療法


術後補助化学療法

術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy)は,治癒切除後の微小遺残腫瘍による再発予防を目的として行われる化学療法である。古くから多くの臨床試験が行われながら確実な延命効果は示されなかったが,2006年,ACTS-GC 試験により S-1 の有効性が示され,これがわが国における標準治療となった134)。〔S-1 以外の補助療法に関しては,ⅢA-5を参照〕

適応

ACTS-GC 試験での対象症例は,胃癌取扱い規約第13版による根治 A,B 手術(D2 以上のリンパ節郭清)を受けた pStage Ⅱ,ⅢA,ⅢB 症例(ただし T1 症例を除く)であり,本ガイドラインでもこの対象に対する S-1補助化学療法を推奨する。
ただし胃癌取扱い規約第14版では,T およびNの分類法と Stage が大幅に変更になっており,13版からの単純な読み換えはできない。旧分類の Stage Ⅱ/Ⅲ症例が新分類ではどのように分類されるかを検討したところ(図 7),SS N0 症例(旧規 約で Stage ⅠB,新規約で Stage ⅡA)とT1症例を除けば,新旧の「Stage Ⅱ/Ⅲ集団」はほぼ同一となる(個々の症例の Stageが新旧で変わらないのではなく,StageⅡ/Ⅲという枠の中に収まる)ことが判明した。したがって,ⅡA-2の表 2のごとく,本ガイドラインでも T3(SS)N0 を除く Stage Ⅱ/Ⅲを補助化学療法の対象とする。


図 7 新・旧規約での「Stage ⅡまたはⅢ」の比較
S-1 補助化学療法は黄色部分が対象となる。T1 および SS/N0 を除くと,新旧規約の Stage Ⅱ/Ⅲはほぼ重なる。(d)は稀な症例。


S-1 補助化学療法の実際

化学療法実施上の一般的基準や注意点は,ⅡD-3に準じる。手術からの回復を待って,術後6週間以内に S-1 投与を開始する。標準量80mg/m2/日の4週間投与2週間休薬を1コースとし,術後1年間継続する。非手術例に比べ術後投与では血液毒性・非血液毒性とも出現しやすいので,臨床・血液所見に応じて薬剤投与レベルを下げるか,投与スケジュールを2週間投与1週間休薬に変更するなどの対応を適宜行う134)