日常診療で推奨される治療法選択のアルゴリズム/CQ・推奨一覧
●日常診療で推奨される治療法選択のアルゴリズム
胃癌取扱い規約第15版のT,N,M,Stageの抜粋
N1:領域リンパ節(No.1~12,14v)の転移個数が1~2個,N2:3~6個,N3a:7~15個,N3b:16個以上
M1:領域リンパ節以外の転移がある(CY1も含む)
Stage:表1 参照
M0 | M1 | ||
---|---|---|---|
N0 | N(+) | Any N | |
T1(M,SM)/T2(MP) | Ⅰ | ⅡA | ⅣB |
T3(SS)/T4a(SE) | ⅡB | Ⅲ | |
T4b(SI) | ⅣA |
M0 | M1 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
N0 | N1 | N2 | N3a | N3b | Any N | |
T1a(M)/T1b(SM) | ⅠA | ⅠB | ⅡA | ⅡB | ⅢB | Ⅳ |
T2(MP) | ⅠB | ⅡA | ⅡB | ⅢA | ⅢB | |
T3(SS) | ⅡA | ⅡB | ⅢA | ⅢB | ⅢC | |
T4a(SE) | ⅡB | ⅢA | ⅢA | ⅢB | ⅢC | |
T4b(SI) | ⅢA | ⅢB | ⅢB | ⅢC | ⅢC |
引用文献
1) 日本胃癌学会編:胃癌取扱い規約第15版.2017.金原出版,東京.
2) TNM Classification of Malignant Tumours Eighth Edition. Ed:Brierley JD, Gospodarowicz MK, Wittekind C. 2017, Wiley Blackwell.
CQ・推奨一覧
No. | クリニカルクエスチョン | 推奨文 | エビデンスの強さ |
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重要臨床課題1 鏡視下手術の適応 | |||
1 | cStageⅠ胃癌に対して腹腔鏡下手術は推奨されるか? |
標準治療の選択肢の一つとして幽門側胃切除術は行うことを強く推奨する(合意率100%(8/8))。 胃全摘,噴門側胃切除術は,行うことを弱く推奨する(合意率100%(8/8))。 いずれの術式も内視鏡外科学会技術認定取得医ないしは同等の技量を有する術者が行う,あるいは同等の技量を有する指導者のもとで行うことを条件とする。 |
幽門側胃切除術:A 胃全摘,噴門側胃切除術:C |
2 | cStageⅡ,Ⅲ胃癌に対して腹腔鏡下手術は推奨されるか? | cStageⅡ,Ⅲ胃癌に対する腹腔鏡下手術について, 現時点では明確な推奨ができない(合意率71.4% (5/7))。 | C |
3 | 胃癌に対してロボット支援下手術は推奨されるか? |
cStageⅠ胃癌に対してはロボット支援下手術を行うことを弱く推奨する。 ただし,内視鏡外科学会の技術認定を取得し,この手術に習熟した医師が行う,および内視鏡外科学会が認定したプロクターの指導下に消化器外科学会の専門医を有する医師が,施設基準を満たした施設で行うことを条件とする(合意率100%(8/8))。 |
C |
重要臨床課題2 機能温存手術の是非 | |||
4 | 胃体部の早期胃癌に対して幽門保存胃切除術は推奨されるか? | 胃体部の早期胃癌に対して,幽門保存胃切除術を行うことを弱く推奨する(合意率100%(8/8))。 | C |
5 | 胃上部の早期胃癌に対して噴門側胃切除術は推奨されるか? | 胃上部の早期胃癌に対して,噴門側胃切除術を行うことを弱く推奨する(合意率100%(8/8))。 | C |
重要臨床課題3 合併切除,拡大手術の意義 | |||
6 | 進行胃癌に対する大網切除は推奨されるか? | cT3-T4胃癌に対して大網切除を行うことを弱く推奨する(合意率100%(8/8)) | C |
7 | 上部進行胃癌に対する脾門郭清は推奨されるか? |
大彎に浸潤しない腫瘍に対しては脾摘や脾門郭清を行わないことを強く推奨する(合意率100%(8/8))。 大彎に浸潤する腫瘍に対しては脾摘や脾門郭清を行うことを弱く推奨する(合意率87.5%(7/8))。 |
大彎浸潤なし:A 大彎浸潤あり:C |
重要臨床課題4 適切な進行度診断 | |||
8 | 胃癌の進行度診断にPET-CT検査は推奨されるか? | 胃癌の進行度診断にPET-CT検査は行わないことを弱く推奨する(合意率100%(8/8))。 | C |
9 | 進行胃癌の治療方針決定に審査腹腔鏡は推奨されるか? | 腹膜播種の可能性が比較的高い進行胃癌症例に対して,治療方針決定のために審査腹腔鏡を施行することを弱く推奨する(合意率100%(8/8))。 | C |
重要臨床課題5 cStageⅣ胃癌に対する治療 | |||
10 | Oligo metastasisに対する外科治療は推奨されるか? | No.16a2/b1に限局した少数の大動脈周囲リンパ節転移に対しては,術前化学療法後の外科的切除を弱く推奨する。また,単発の肝転移は,他に非治癒切除因子がない場合,外科的切除を弱く推奨する (合意率100%(7/7)) | C |
11 | Conversion surgeryは推奨されるか? | StageⅣ胃癌症例に対してConversion surgeryを行うことは,化学療法により一定の抗腫瘍効果が得られ,奏効が維持され,R0切除が可能と判断される条件付きで弱く推奨する(合意率100%(7/7))。 | D |
重要臨床課題6 食道胃接合部癌に対する手術 | |||
12 | 食道胃接合部癌に対する手術において縦隔リンパ節郭清は推奨されるか? | cT2以深の食道胃接合部癌に対する手術において, 食道浸潤長が2cm超であれば下縦隔リンパ節郭清を,食道浸潤長が4cm超であれば上中下縦隔リンパ節郭清を行うことを弱く推奨する(合意率100% (9/9))。 | C |
13 | 食道胃接合部癌に対する手術において,腹部大動脈周囲リンパ節(No.16a2lat)郭清は推奨されるか? | 食道胃接合部癌に対する手術において,腹部大動脈周囲リンパ節(No.16a2lat)郭清の実施については明確な推奨ができない(2回投票を行ったが推奨度は決められなかった)。 | C |
14 | 食道胃接合部癌に対する手術において,噴門側胃切除は推奨されるか? | 食道胃接合部癌に対する手術において,噴門側胃切除を行うことを弱く推奨する(合意率100%(9/9)) | C |
重要臨床課題7 残胃癌に対する治療 | |||
15 | 残胃癌に対して脾摘を伴うリンパ節郭清は推奨されるか? | 残胃進行癌で大彎に浸潤する病変に対しては,脾摘を伴う脾門リンパ節郭清を行うことを弱く推奨する (合意率100%(6/6))。大彎に浸潤しない病変に対しては,行わないことを弱く推奨する(合意率100%(6/6))。 |
残胃進行癌で大彎に浸潤する病変:D 残胃進行癌で大彎に浸潤しない病変:D |
重要臨床課題8 ERASプロトコールの意義 | |||
16 | 胃切除術の周術期管理にERASプロトコールは推奨されるか? | 胃切除術の周術期管理にERASプロトコールを強く推奨する(合意率100%(8/8))。 | A |
重要臨床課題9 術後フォローアップの意義 | |||
17 | 術後計画的フォローは推奨されるか? | 再発の早期発見,生存期間の延長という観点からは胃癌根治切除後に計画的フォローは有用とはいえない。ただし,再発後治療が有効である場合には生存期間の延長が得られる可能性があり,胃切除後の生活指導や胃切除術後障害への対応などを加味し,術後計画的フォローを行うことを弱く推奨する(合意率100%(8/8)) | D |
重要臨床課題10 全身化学療法の適応 | |||
18 | 高齢の切除不能進行・再発胃癌症例に対して化学療法は推奨されるか? |
高齢の切除不能進行・再発胃癌症例では,患者の状態を慎重に評価したうえで,状態良好(fit)であれば,化学療法を行うことを強く推奨する(合意率100%(4/4))。 それ以外の場合(vulnerable/unfit)は状況が多彩であるため,明確な推奨ができない(合意率100% (4/4))。 |
状態良好(fit):B それ以外の場合 (vulnerable/ unfit):B |
19 | 高度腹膜転移による経口摂取不能または大量腹水を伴う症例に対して化学療法は推奨されるか? | 高度腹膜転移による経口摂取不能または大量腹水を伴う症例では,全身状態を慎重に評価したうえで化学療法を行うことを弱く推奨する(合意率100% (5/5))。 | C |
20 | 骨髄癌腫症を伴う胃癌症例に対して化学療法は推奨されるか? | 骨髄癌腫症を伴う胃癌症例に対して化学療法を行うことを弱く推奨する(合意率100%(5/5))。 | D |
21 | 中枢神経転移のある胃癌症例に対して化学療法は推奨されるか? | 中枢神経転移のある胃癌症例に対して,全身状態良好な症例に限り化学療法を行うことを弱く推奨する(合意率100%(5/5))。 | D |
22 | 切除不能進行・再発胃癌に対してゲノム検査に基づいた個別化医療は推奨されるか? | 既治療の切除不能進行・再発胃癌に対して,がん遺伝子パネル検査で得られた遺伝子異常に基づいた治療を行うことを弱く推奨する(合意率100%(5/5)) | C |
重要臨床課題11 切除不能進行・再発胃癌に対する一次化学療法 | |||
23 | 切除不能進行・再発胃癌の一次治療において免疫チェックポイント阻害剤は推奨されるか? | 切除不能進行・再発胃癌の一次治療において免疫チェックポイント阻害剤併用の有用性を示す比較試験の結果が報告されているが,2020年9月現在, 未承認であるため明確な推奨ができない(合意率100%(7/7))。 | B |
24 | 周術期補助化学療法後の再発例に対して,フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法は推奨されるか? | 補助化学療法後6カ月以降の再発例には,フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法を行うことを弱く推奨する(合意率100%(5/5))。 | C |
重要臨床課題12 切除不能進行・再発胃癌に対する二次化学療法 | |||
25 | 切除不能・進行再発胃癌に対して増悪後の継続薬剤使用(Beyond PD)は推奨されるか? | 切除不能進行・再発胃癌の化学療法において,S-1, トラスツズマブのBeyond PDは行わないことを強く推奨する(合意率100%(5/5))。 | B |
重要臨床課題13 緩和的治療 | |||
26 | 進行胃癌の緩和的治療として内視鏡的消化管ステント留置は推奨されるか? | がんによる胃流出路閉塞(胃幽門部および十二指腸閉塞;gastric outer obstruction)に対して,経口摂取目的に胃空腸吻合術あるいは消化管ステント留置を行うことを弱く推奨する(合意率100%(5/5))。 | C |
27 | 進行胃癌の緩和的治療としてCART(腹水濾過濃縮再静注法)は推奨されるか? | 腹水貯留を伴う進行胃癌の緩和的治療としてCARTを行うことに対し,明確な推奨ができない。 実施には施設設備状況や患者背景を考慮して適応を考える必要がある。腹水貯留による腹部膨満感で苦痛を伴う患者には,腹腔穿刺ドレナージにより症状の改善を図る(合意率80%(4/5))。 | D |
重要臨床課題14 周術期化学療法 | |||
28 | 根治切除可能な進行胃癌・食道胃接合部癌に対して術前化学療法は推奨されるか? | 根治切除可能な進行胃癌・食道胃接合部癌に対する術前補助化学療法については明確な推奨ができない (合意率71.4%(5/7))。 | B |
29 | R0手術が施行されたStageⅣ胃癌に対して術後補助化学療法は推奨されるか? | R0手術が施行されたStageⅣ胃癌に対して術後補助化学療法を行うことを弱く推奨する(合意率100%(7/7))。 | C |
30 | 胃切除されたCY1胃癌に対してフッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法は推奨されるか? | 胃切除されたCY1胃癌に対してフッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の併用療法は行わないことを弱く推奨し(合意率100%(7/7)),S-1単剤による化学療法を弱く推奨する(合意率100%(7/7)) |
併用療法:C S-1単剤:C |
重要臨床課題15 高齢者 | |||
31 | 高齢者に対する内視鏡的切除は推奨されるか? | 高齢者に対する内視鏡的切除は治療に伴う偶発症リスク(特に肺炎)に留意したうえで,実施することを強く推奨する(合意率100%(10/10))。 | C |
重要臨床課題16 抗血栓薬服用者 | |||
32 | 抗血栓薬服用者に内視鏡的切除は推奨されるか? | 抗血栓薬服用者に対する内視鏡的切除は,治療に伴う利益と不利益とを十分考慮したうえで,実施することを強く推奨する(合意率89%(8/9))。 | C |